「原価計算研究」 バックナンバー

2004年 Vol.28, No.2 (通算第56冊)

経営戦略と管理会計の関係性に関する考察
−「戦略的管理会計」論の依拠する戦略概念−

新江孝・伊藤克容
Summary
最近の管理会計研究では,経営戦略と管理会計との関係が重要な問題として扱われている。研究の蓄積によって経営戦略概念自体が多様化している現状では,経営戦略と管理会計との関係はかつて想定されていたほどには単純ではなくなっている。この研究では,経営戦略と管理会計とのきわめて複雑な関係をベースとなる戦略概念という視点からいくつかのカテゴリーに分類・整理し,管理会計の新たな体系を提示することを目的とする。
Key Words
①経営戦略と管理会計との関係性 ②戦略的管理会計(Strategic Management Accounting, SMA) ③ポジショニング・アプローチ ④ゲーム・アプローチ ⑤資源アプローチ ⑥学習アプローチ ⑦競合分析 ⑧ツール開発 ⑨運用プロセス

ラインカンパニー制がカンパニー・リーダーの内発的動機づけに及ぼす効果
−住友電工㈱グループにおけるラインカンパニー制の実証的研究−

渡辺岳夫
Summary
住友電工㈱グループにおけるラインカンパニー制の情報特性ならびに運用方法が,カンパニー・リーダーの内発的動機づけに及ぼす効果を実証的に分析した。その結果,情報特性・運用方法が,リーダーに情報的事象として認知されている場合,有能感を媒介して内発的動機づけに正の効果を,それらが制御的事象として認知されている場合,強制感を媒介して内発的動機づけに負の効果を及ぼしていることが明らかにされた。
Key Words
①ラインカンパニー制 ②カンパニー・リーダー ③内発的動機づけ ④影響システム ⑤情報特性 ⑥運用方法 ⑦システム特性 ⑧情報的事象 ⑨制御的事象

ミニ・プロフィットセンターの相互依存関係マネジメントへの役立ち
−電子部品メーカーA社のケースを通じて−

窪田祐一・島吉伸・吉田栄介
Summary
近年,厳しい競争環境から,企業は相互依存関係の適切な管理を必要としている。そのなかで,ミニ・プロフィットセンター(MPC)に代表される自律的調整活動を促す仕組みが注目されている。そこで本稿は,経時的ケーススタディを通じて,擬似MPCの相互依存関係マネジメントへの役立ちについて考察した。結論として,擬似MPCは導入経緯において順機能と逆機能の両側面を有することを明示する。
Key Words
①ミニ・プロフィットセンター ②相互依存関係 ③マネジメント・コントロール・システム ④エンパワメント ⑤導入効果 ⑥逆機能 ⑦経時的ケーススタディ

サプライチェーンにおける利益共有の有用性

皆川芳輝
Summary
本論文は,サプライチェーン全体の合算利益に対しても,各メンバーの取り分に対しても利益共有がプラスの影響を与えることを理論的に明らかにする。さらに,いかなる方法によってサプライチェーン全体の利益を各メンバーに再配分すべきかについて考察する。本研究は,サプライチェーンの供給製品が製品ライフサイクルの成長段階から成熟段階に移行すると,有用な利益共有の方法が異なるという視点に立つ。
Key Words
①利益共有 ②サプライチェーン・マネジメント ③製品ライフサイクル ④取引特殊的投資 ⑤リードタイム

日本企業におけるバイヤー・サプライヤー間の協働

坂口順也
Summary
日本企業におけるバイヤー・サプライヤー間の協働は組織間管理会計の重要な研究課題の一つとして注目されている。しかし,その内容は逸話的なものが多く,わが国での実態は十分に明らかにされていない。そこで本研究では,質問票調査の結果を用いて日本企業におけるバイヤー・サプライヤー間の協働の実態について検討する。
Key Words
①組織間管理会計 ②バイヤー・サプライヤー間の協働 ③開発段階 ④バイヤーのイニシアティブ ⑤取引の安定性 ⑥信頼 ⑦加工組立型産業 ⑧質問票調査

財務的指標と非財務的指標の業種別分析

河合隆治
Summary
バランス・スコアカードの議論では,各企業がどの業績指標を重視・測定しているかに関して業種特性の影響を受けることが指摘されている。しかし,この指摘に関するわが国の知見は現時点で十分に蓄積されていない。そこで本研究では,質問票調査結果を基礎として,業績指標の重要度や業績指標間の関連性を業種別に分析する。
Key Words
①バランス・スコアカード ②業績測定システム ③財務的指標 ④非財務的指標 ⑤質問票調査 ⑥業種別分析 ⑦業績指標の重要度 ⑧業績指標間の関連性

顧客別収益性分析の進展
−期間的な問題を考慮した意思決定方法の検討−

島田康人
Summary
顧客別収益性分析では管理会計とマーケティング理論の2つの研究領域において大きな差異がある。マーケティングでは長期的な視点で顧客別の収益性分析を行うことを重視しているが,管理会計では顧客別の精密なコスト算定およびコスト低減に重要性を置いている。本研究ではマーケティングとの差異を明確にし管理会計において顧客別収益性分析を発展させることを目的とする。
Key Words
①顧客別収益性分析(Customer Profitability Analysis) ②顧客生涯価値(Customer Life Value) ③マーケティング ④コスト低減 ⑤コスト階層 ⑥顧客満足(Customer Satisfaction) ⑦ABC(Activity-Based Costing) ⑧ABM(Activity-Based Management)

日本企業におけるEVA®導入の効果とその考察

楠 由記子
Summary
近年,EVAが企業の業績評価尺度として注目され,日本においてもEVAを採用する企業が増加している。本研究では,EVA採用企業がどのような戦略をとる傾向があるのか,それがどのようなメカニズムでEVAに影響を与えるのかを解明するとともに,EVAのマネジメントに対する有用性を明らかにした。
Key Words
①事業組織の再編成 ②業績評価指標 ③経済付加価値 ④バリュー・ドライバー ⑤EVAのマネジメント効果

銀行管理会計の歴史的考察

谷守正行
Summary
いま,わが国の銀行は未曾有の危機に陥っている。銀行では昭和初期から原価計算などの研究が進められ,高度成長期には独立採算制度や伝統的原価計算などを相当に実践してきたはずであったが,バブル期に十分に機能できたとは言いがたい。わが国にはじめて銀行が設立されてから現在までの銀行管理会計の発展と課題を歴史的に考察していく。
Key Words
①銀行管理会計 ②銀行原価計算 ③独立採算制度 ④本支店勘定利息制度 ⑤スプレッド収益管理 ⑥ABC ⑦信用コスト ⑧VaR ⑨リスク調整後収益指標 ⑪RAROC