「原価計算研究」 バックナンバー

2008年 Vol.32, No.2 (通算第64冊)

マネジメント・プロセスとしての設備投資の実態分析
−質問票調査からの発見事項−

清水信匡・加登 豊・坂口順也・河合隆治
Summary
本研究では、管理会計として設備投資を分析するための新たな切り口としてマネジメント・プロセスに着目した分析を行う。製造業を対象とした日本企業の質問票調査を利用した結果、設備投資マネジメント・プロセスの構成要因として「財務的な事後評価」、「事前の採算性チェック」、「案件の順位設定」、「慎重な検討」が抽出され、それぞれの要因が設備投資マネジメントの効果に異なる影響を与えることが明らかとなった。
Key Words
①設備投資 ②投資決定 ③マネジメント・プロセス ④設備投資マネジメントの効果 ⑤事前の採算性チェック ⑥財務的な事後評価 ⑦案件の順位設定 ⑧案件の慎重な検討

回収期間法と貨幣の時間価値
−新日本製鐵株式会社の事例より−

堀井悟志
Summary
これまで日本企業は貨幣の時間価値を考慮しない回収期間法を利用しているとされてきた。しかし,回収期間法にも貨幣の時間価値を考慮する方法(割引回収期間法など)は存在している。そこで本論文では,貨幣の時間価値を考慮する割引回収期間法が実際に利用されていることを新日本製鐵株式会社の事例により明らかにする。
Key Words
①投資経済計算 ②貨幣の時間価値 ③単純回収期間法 ④割引回収期間法 ⑤新日本製鐵株式会社(新日鉄)

わが国企業の資本予算評価技法の利用実態
−時間価値重視の評価技法へのシフトと技法併用の状況−

篠田朝也
Summary
本稿では,資本予算の経済性計算評価技法の利用実態についてわが国の上場企業に実施した質問票調査の結果を分析している。本研究における重要な貢献は,先行調査では具体的に検討されてこなかった割引回収期間法,および,新しい技法としてのモンテカルロDCF法とリアル・オプションを検討対象としたことにある。本稿では,時間価値を重視した評価技法への利用の推移,および,評価技法の併用状況に焦点を絞って分析を行う。
Key Words
①資本予算 ②経済計算評価技法 ③回収期間法(PP) ④割引回収期間法(DPP) ⑤会計的利益率法(ROI) ⑥純現在価値法(NPV) ⑦内部収益率法(IRR) ⑧モンテカルロDCF法(MCDCF) ⑨リアル・オプション(RO) ⑩質問票調査

工作機械メーカーの設備投資行動
−有形固定資産等明細表データによるVAR分析−

高見茂雄
Summary
設備投資行動の分析の多くは,大規模パネルデータを用い,重回帰分析手法を採用している。しかし,重回帰分析では,個社・特定年度の背後の要因と変数間の時系列因果関係を追うことができない点で課題を残す。そこで,本研究は工作機械メーカー10社のバブル期以降の時系列データを用い,個社ごとにVAR分析手法により,諸変数の感度と伝播状況を調べる。そして,その定量分析結果と社史や企業インタビュー結果などの定性的情報との整合性を考察する。
Key Words
①工作機械メーカー10社 ②VAR ③インパルス応答 ④感応度 ⑤社史・企業インタビュー結果

Value-Based Managementにおける経済的利益の有用性
−フリー・キャッシュフローとの比較を中心として−

安酸建二
Summary
企業の価値創造を明示的な企業目標とするvalue-based managementの普及に伴い、それを支援する期間業績指標としてフリー・キャッシュフローと資本コストを控除した経済的利益が注目されている。本稿では、経済的利益がもたらす価値創造に関する情報を、フリー・キャッシュフローがもたらす情報と比較することによって、経済的利益の有用性を示す。
Key Words
①企業価値 ②価値創造 ③value-based management ④フリー・キャッシュフロー ⑤経済的利益 ⑥クリーンサープラス関係

アメリカ国防総省における管理会計の展開
−LCC(Life Cycle Costing)とPPBS(Planning, Programming and Budgeting System)の展開を中心として−

岡野憲治
Summary
アメリカ国防総省管理会計にはPPBSの発展形態であるPPBESがあり、このシステムにおいてライフサイクル・コスティングは、多様な機能を遂行している。本稿は、これらシステムの関係を歴史的展開の中で理解し、特に、取得プログラムにおけるライフサイクル・コスティングの機能を明らかにする。
Key Words
①アメリカ国防総省 ②ライフサイクル・コスティング ③PPBS ④PPBES ⑤取得プログラム ⑥5000モデル

日本企業における成果主義と会計情報との係わり
−人事管理指向と業績管理指向を視点にしたマネジメント・コントロールの検討−

内山哲彦
Summary
本論文では、郵送質問票調査の回答データの分析から、内山(2007)で指摘した日本企業の成果主義における人事管理指向と業績管理指向について、それらが観察される企業や適用対象を明らかにした上で、両指向性が会計的業績評価とどのように係わるかを明らかにすることで、日本企業のマネジメント・コントロールの特質を検討する。
Key Words
①成果主義 ②会計的業績評価 ③報酬制度 ④業績管理制度 ⑤マネジメント・コントロール ⑥人事管理指向 ⑦業績管理指向 ⑧郵送質問票調査 ⑨統計的分析

ABC導入が財務成果に与える影響についての経験的研究

松尾貴巳・大浦啓輔・新井康平
Summary
管理会計システムの導入研究は,近年国際的にも注目を集めている研究領域である。しかし,ABCといった管理会計システムの導入が,企業の財務成果にどのような影響をもたらしたのかという視点からの経験的証拠は多くはない。そこで,本論文ではABCを導入している酒類卸売業である(株)飯田のインタビューデータとアーカイバルデータに基づいて,ABC導入の財務成果について検証を実施した。結論として,ABC導入は財務業績に対して一時的に負の効果を与えたが,結果的には正の効果をもたらしたことが示された。
Key Words
①導入研究 ②ABC(活動基準原価計算) ③アーカイバルデータ ④パネルデータ分析 ⑤財務成果

Activity And Architecture Based Costing (Triple-ABC)へのアプローチ
−活動量とコストの構造的密着性と因果連鎖の考察−

外山咊之
Summary
国際化、IT化の進展は、スピードを満たす参加型経営管理の統合システムを求めているが、Accountabilityと整合性を備え、コスト発生の根幹を発生場所から組み上げるシステム技術を追求する必要がある。筆者は構造マトリックスをベースに、活動量のみでなく、仕組みを組み上げることを前提に追求した、草の根の技術を報告する。
Key Words
①活動量 ②コストの構造 ③構造マトリックス ④非線形 ⑤因果連鎖 ⑥Accountability ⑦Triple-ABC ⑧経営管理 ⑨統合システム