「原価計算研究《 バックナンバー

2010年 Vol.34, No.1 (通算第67冊)

サービス業における原価計算の普及阻害メカニズムとその可変性
医療を中心とした「人対人《サービス業に焦点を当てて

荒井 耕
Summary
高い無形性・定型化困難度・個別性要求度・公共度及び低い管理可能度並びに時空共有必要性などの「人対人《サービス業の特徴が、原価計算の普及を阻害するメカニズムを明らかにする。またその普及阻害メカニズムは可変性を有するものであり、現実に普及の阻害を緩和する方向で変化しつつあることを示す。
Key Words
①サービス ②医療 ③原価計算 ④普及阻害メカニズム ⑤定型化困難度 ⑥個別性要求度 ⑦管理可能度 ⑧プロセス標準化 ⑨公共性 ⑩仮の間接費

受注ソフトウェア制作の管理会計の現状と今後

川野克典
Summary
2009年度から日本においても、工事契約会計基準等が見直され、この基準の適用が契機となって、受注ソフトウェア制作事業において、顧客重視、原価企画、将来予測重視の予算管理、コストドライバーの管理、スコアカードやWBSを使ったプロジェクトの「視える化《という特徴を持つ新しい管理会計が導入されつつある。本論はA社の事例を通して、受注ソフトウェア制作事業の新しい管理会計を考察する。
Key Words
①個別(プロジェクト別)原価計算 ②実行予算管理 ③工事契約会計基準 ④顧客重視 ⑤原価企画 ⑥将来予測重視の予算管理 ⑦コストドライバーの管理 ⑧視える化

鉄道事業における原価把握
*貨物鉄道事業における課題と新しい手法の開発*

白石規哲
Summary
本研究では、鉄道事業のなかでも国内貨物輸送における原価把握に関する課題に着目し、議論を行う。国内貨物鉄道事業は他輸送機関との競争条件が異なり、さらに運賃規制も撤廃されていることなど、経営環境も大きく異なる。そのため、旅客輸送とは異なった観点から、原価計算対象の再定義などをも含めた新たなアプローチが求められる。ここではその方策としてABCを活用した原価算定モデルの提案を行う。
Key Words
①鉄道 ②貨物 ③原価計算 ④原価計算対象 ⑤ABC

電気通信事業の原価計算
―2つのコスト概念とサンクコスト―

関口博正
Summary
電気通信の接続料原価算定には幾つかの異なる原価概念が用いられている。本論ではメタル回線の接続料原価算定に長期増分費用方式を導入したことが接続料低廉化を実現したこと、他方NTT東西にはサンクコストを発生させたことを示す。なお、第一種電気通信設備管理部門でのサンクコストは早期に消滅したが、同利用部門を含む全社ベースではNTSコストの回収漏れがサンクコストとなっていることも明らかにする。
Key Words
①接続料 ②実際費用 ③長期増分費用 ④サンクコスト ⑤NTSコスト

わが国サービス産業における原価情報の利用に関する現状と課題
"わが国全上場サービス企業へのアンケート調査(2008年)をもとに"

岡田幸彦
Summary
本稿は、2008年度調査を探索的に分析し、2つの大綱的仮説を検証するとともに、5つの副次的発見物を明らかにしている。わが国サービス産業では、高業績事業者ほどより高いコスト意識を持ち、より巧みな原価計算・原価管理を行っている可能性が高い。この知見は、今後の本格的な確認型実証研究や国際比較研究の方法を示すとともに、わが国サービス産業が抱える構造的問題をも示唆する。
Key Words
①サービス ②原価計算 ③原価管理 ④コスト意識 ⑤探索型実証研究

日本医療界における診療プロトコル開発活動を通じた医療サービス原価企画の登場
―その特質と支援ツール・仕組みの現状―

荒井 耕
Summary
医療界でも原価企画は利用可能であり、また既存の診療プロトコル開発活動は多くの面から原価企画と類似する。推進のための7つ道具や組織的仕組みも整備されつつある。しかし製造業の原価企画と完全に一致するものではない。包括払い制の拡大や技術革新の激しい環境からますます原価企画が上可欠となるが、医療業の特質を踏えた展開が期待される。
Key Words
①医療 ②診療プロトコル ③原価企画 ④サービス ⑤コストマネジメント ⑥パス ⑦費用対効能 ⑧源流管理 ⑨DPC

公共サービスにおける目標原価管理
‐大分県庁におけるフィールドリサーチをもとに‐

目時壮浩
Summary
本稿は,大分県庁におけるVE実践に関するフィールドリサーチを通じて,地方自治体が提供する公共サービスにおいて,住民らのニーズと目標原価の同時的達成を目論む目標原価管理について検討する。とりわけ,公共サービスのアウトカムの作り込みの場面における目標原価の設定とその展開プロセスを明らかにし,自治体・政府組織における目標原価管理の意義と今後の研究課題を明らかにする。
Key Words
①公共サービス ②アウトカムの作りこみ ③目標原価管理 ④原価企画 ⑤VE ⑥大分県庁 ⑦フィールドリサーチ

日本企業におけるコストマネジメントに関する実証研究:原価企画とMPCを中心として

吉田 栄介・福島 一矩
Summary
本稿では,日本企業における組織コンテクスト,原価企画とMPC制の利用と効果の関係解明を目的として,郵送質問票調査に基づく分析・考察を行った。その結果,組織コンテクストが原価企画とMPC制の利用に与える影響が異なること,原価企画やMPC制の実施における会計情報の利用や協働によるコストマネジメントが,原価企画やMPC制の効果に正の影響を与えることを確認した。
Key Words
①コストマネジメント ②郵送質問票調査 ③原価企画 ④ミニプロフィットセンター ⑤カイゼン志向 ⑥エンパワメント志向 ⑦イノベーション志向

環境コストマネジメントにおける環境パフォーマンス指標の役割
~SBSC構築に向けて~

岡 照二
Summary
サステナビリティ・バランスト・スコアカード(SBSC)は2000年前後、エコ・エフィシェンシ*は1990年代前半以降、欧州を中心に理論・事例研究が進められてきた。両者はともに「環境《と「経済《を両立するフレームワークや指標として提唱された。本稿では、両者の特徴を考察したうえで、環境コストマネジメントの側面から、SBSCでのエコ・エフィシェンシ*指標の利用可能性について検討する。
Key Words
①サステナビリティ・バランスト・スコアカード(SBSC) ②環境コストマネジメント ③エコ・エフィシェンシ*(Eco-efficiency) ④環境パフォーマンス指標 ⑤経済パフォーマンス指標

部門別計算における部門概念の変容

小沢 浩
Summary
部門別計算は,1915年頃から,80年代後半と同様の問題意識を背景として,正確な製品原価計算のために展開されてきた。部門概念は,機械率の発明による配賦率の複数化に伴って現れ,30年代前半の補助部門概念の発明に伴って「活動《を包摂する概念となった。しかし,30年代後半に責任会計への役立ちが期待されるようになると,経営部門との関係が曖昧になり,製品原価計算手法としては後退してしまった。
Key Words
①部門別計算 ②製品原価計算 ③責任会計 ④間接費 ⑤レレバンスロスト

MCSにおけるABCの役割期待
*コミットメント形成の「場《を中心に*

片岡洋人
Summary
本稿では、自律的組織の下で適切なMMループを形成するためのABC情報の利用方法を検討している。適切なMMループの形成には、情報共有やコミュニケーションを促進し、階層間/部門間のコミットメントを形成することが上可欠である。その際、情報相互作用を生じさせる「場《が必要となり、ABC情報を司る会計担当者が「場《において重要な役割を担うことを明らかにしている。
Key Words
①MCS ②ABC ③MMループ ④自律的組織 ⑤会計担当者 ⑥コミットメント ⑦「場《

日本電気における原価低減と利益管理

前田 陽
Summary
本稿の目的は、戦後における日本電気の事例を取り上げ、元々、標準原価管理を行なっていた同社が、どのようにして原価低減活動を支援する管理会計システムを生み出したのか。そのシステムがいかにして利益管理システムと結びつけられるに至ったのかという進化のプロセスを明らかにすることである。また、プロジェクトVEという原価低減活動のための管理会計システムと、利益管理システムとを体系的に整合させている仕組みについても言及する。
Key Words
①日本電気(NEC) ②標準原価管理 ③原価低減活動 ④利益管理 ⑤ZD運動 ⑥VE活動 ⑦技術 ⑧品質管理 ⑨原価管理

生産管理のための利益情報:日本企業の事業所・工場からの知見

新井 康平・大浦 啓輔・北田 皓嗣
Summary
本論文では,工場や事業所における生産管理において,財務情報,特に利益情報が用いられることについての理論的な説明とその経験的な検証を行った。管理可能性原則に代替する観点として「インフォーマティブ原理《を採用することによって,生産管理において利益情報の活用が効率的となる分権化の度合いと相互依存性の条件を予測し,これを実証した。
Key Words
①生産管理 ②利益情報 ③管理可能性 ④分権化の度合い ⑤相互依存性

生産能力の調整が原価非対称に及ぼす影響:国際比較研究

鄭文鐘・李成旭・陸根孝
Summary
本研究では、企業の生産要素に対する調整計画の有効性が原価の下方硬直性に与える影響を比較することによって、企業の原価態様の決定要因に対する直接的証拠を提示する。さらに、産業によって原価の態様が異なっているという先行研究のモデルを拡張して、 国によって原価の下方硬直性の程度やその決定要因が異なっているかにフォーカスを合わせて分析を行う。
Key Words
①原価の下方硬直性 ②原価態様(cost behavior) ③設備キャパシティー ④コミッテッド・コスト