「原価計算研究《 バックナンバー

2010年 Vol.34, No.2 (通算第68冊)

バランス・スコアカード研究の現状と課題
―実証研究のレビューに基づく検討―

安酸建二・乙政佐吉・福田直樹
Summary
バランス・スコアカード(Balanced Scorecard:以下BSC)研究に関する文献レビューを通じて,その研究の現状と今後の研究課題を提示することを本論文は目的としている。特に,BSCに関連する実証研究に焦点を当て,BSC研究の現状と課題を検討する。
Key Words
①バランス・スコアカード(Balanced Scorecard:BSC) ②マネジメント・コントロール ③財務指標 ④非財務指標 ⑤実証研究

企業の製品・市場戦略の変更と管理会計担当者の役割

福田淳児
Summary
本研究では,組織における戦略変更が管理会計担当者の役割に及ぼす影響をアメリカ企業を対象とした郵送質問票調査によって明らかにした。Prospector型戦略またDefender型戦略への変更を経験した企業と,戦略変更を経験していない企業との間で,環境の知覚,管理会計担当者と他の職能担当者とのコミュニケーションの頻度,管理会計担当者に必要とされるスキルおよび彼らが組織内で果たす役割に違いが見られた。
Key Words
①Prospector型戦略への変更 ②Defender型戦略への変更 ③環境の知覚 ④他の職能担当者とのコミュニケーション頻度 ⑤コミュニケーション・スキル ⑥管理会計担当者の役割

予算管理の運用方法とその効果に関する実証分析
*垂直的情報共有を媒介として*

岸田隆行
Summary
近年、マネジメント・コントロール・システムを双方向的に利用することで、上確実性に対処することが可能であるとの研究がなされている。本研究では戦略的上確実性と予算管理の運用方法との関係およびその効果について実証的に検証した。その結果、予算管理の双方向的利用と参加型予算が情報共有を媒介として学習や予算管理の有用性認知に正の影響を与えることが確認された。
Key Words
①予算管理 ②事業戦略 ③戦略的上確実性 ④双方向型コントロール・システム ⑤参加型予算 ⑥垂直的情報共有 ⑦構造方程式モデリング

日本企業における業績・予算管理の利用に関する実証研究

吉田 栄介・妹尾 剛好
Summary
本稿では,日本企業における意思決定環境,組織コンテクスト,組織規模,業績・予算管理の利用と組織業績の関係解明のため,東証一部上場製造業151社への郵送質問票調査に基づき,分析・考察した。その結果,組織コンテクストの業績・予算管理への様々な影響,組織規模の業績管理への影響を確認した。一方,意思決定環境の影響,業績・予算管理の組織業績への影響について,有意な関係はほとんど見いだせなかった。
Key Words
①業績管理 ②予算管理 ③郵送質問票調査 ④実証研究 ⑤戦略的上確実性 ⑥戦略的リスク ⑦イノベーション ⑧エンパワメント ⑨カイゼン

部門間調整のための予算水準とスラックの管理

小沢 浩
Summary
予算を部門間調整の手段として捉える立場から,単独部門ではなく,複数部門にまたがる予算の編成を念頭において,予算水準の決定,スラックの活用方法について論じる。そして,この場合には,(1)予算水準は期待される平均値よりも低い水準に設定されるべきであること,(2)スラックは解消するのではなく,計画・利用する必要があること,(3)発生主義会計的のもとでは予算に組み込めないスラックがあることを主張する。
Key Words
①予算 ②部門間調整 ③業績評価 ④スラック ⑤ボトルネック

未利用キャパシティの利用と管理者の業績評価
*責任会計論の観点から*

望月信幸
Summary
本論文では,投資意思決定や資金管理の権限が管理者に委譲された自律的事業部制組織やカンパニー制組織に対し,適切な業績評価指標としてセグメント貸借対照表を利用することを検討する。その際,管理可能性および未利用キャパシティの概念をセグメント貸借対照表に組み込み,その表示形式を工夫することで管理者の業績評価と将来の原価改善に有用な情報を提供することを目的としている。
Key Words
①責任会計 ②管理者に委譲された権限と責任 ③管理者の業績評価 ④管理可能性 ⑤未利用キャパシティ ⑥セグメント貸借対照表

製造部門における利益管理

足立 洋
Summary
近年,擬似プロフィット・センターのケースを中心として,製造部門の利益中心点化による原価改善へのインパクトが報告されている。これに対し,セーレンの工場は,真性プロフィット・センターの形をとることによって,営業部との価格交渉において実施される原価低減案の調整を通じ,製品ごとに市場環境の変化に応じた原価改善を自律的に実施していた。
Key Words
①工場 ②利益中心点 ③原価改善 ④営業部 ⑤価格交渉 ⑥VA案

顧客満足度の差異分析にかかわる研究

松岡孝介・鈴木研一
Summary
顧客満足度の差異を発生要因(ドライバー)に展開する方法を示し、適応事例によってこの差異分析方法の有用性を検討した。その結果、本稿で提案された方法が顧客満足度の差異を発生要因ごとに量的に把握することを可能とし、顧客満足度の改善をPlan-Do-Seeサイクルの中で行う可能性を高めることが示唆された。
Key Words
①顧客アンケート調査 ②顧客満足度指標 ③ドライバー指標 ④差異分析 ⑤原因分析 ⑥責任分析

わが国企業の投資経済性評価の多様性と柔軟性

篠田 朝也
Summary
本稿は,日本企業における経済性評価技法の利用実務の多様性と柔軟性を明らかにする。質問票調査に基づく実証的な検証を通じて,わが国では,貨幣の時間価値を考慮しない単純回収期間法のみが利用されているわけではなく,もっと多様な方法が幅広く利用されているということ,および,同一の企業においても,必要に応じて案件の性質を考慮することで,重視する経済性評価技法を柔軟に変えているということを明らかにする。
Key Words
①資本予算 ②投資経済計算 ③貨幣の時間価値 ④経済性評価技法の併用 ⑤経済性評価技法の利用の多様性 ⑤案件に応じた経済性評価利用 ⑥質問票調査

併用方式による企業価値評価

平井裕久・椎葉 淳
Summary
本研究では,企業価値評価において,市場株価法,割引キャッシュ・フロー法,類似企業比較法などによる複数の評価額を加重平均する併用方式について,Yee (2008)のモデルを検討するとともに,TOBデータを用いて検証することにより,現実のデータへの適用方法を示すとともに,モデルの拡張の必要性について明らかにする。
Key Words
①企業価値評価 ②併用方式 ③市場株価法 ④DCF法 ⑤類似企業比較法 ⑥TOB

主要顧客比率が企業業績に及ぼす影響について

佐々木郁子・椎葉 淳・高橋邦丸
Summary
本研究は、顧客との関係に焦点を当てた戦略の遂行が企業業績にどのような影響を及ぼすかについて、わが国製造業の財務データを用いて実証分析を試みている。分析の結果、主要顧客の存在及びその比率はサプライヤーの企業業績に影響を及ぼすことが明らかになった。また、主要顧客を持つことは、部分的にではあるが企業の利益持続性に影響を与えることが示された。
Key Words
①主要顧客 ②顧客関係性 ③サプライチェーン ④財務業績 ⑤利益持続性

日本企業のグループ経営における管理会計実践
*クラスター分析にもとづく経験的研究*

福嶋 誠宣・加登  豊 ・新井 康平
Summary
近年の我が国では,グループレベルでの組織改革が多くの企業で試みられてきた。このような変化を経た今日の日本企業が,グループ経営において実践している管理会計の様相を明らかにするため,我々は,M. GooldとA. Campbellが示したマネジメントスタイルという概念に依拠して実態調査を実施した。その調査データをクラスター解析によって分析したところ,彼らの結論とは異なる分類結果が示された。
Key Words
①グループ経営 ②グループ会社 ③親会社 ④業績評価 ⑤分権的組織の管理会計

企業グループが異なる数社によるシェアードサービス
*北海道地区における酒類企業の共同配送の事例に基づいて*

園田智昭
Summary
共同配送は,企業グループが異なる数社が実施するシェアードサービスの1形態である。北海道地区における酒類企業の共同配送にキリンビールが追加的に参加したケースについては,追加的な受注の意思決定という既存の管理会計理論で説明可能である。さらに,ベンチマーク効果による知の移転が生じ,業務品質が向上することなども確認された。
Key Words
①共同配送 ②シェアードサービス ③サッポロビール ④キリンビール ⑤サッポロ流通システム ⑥業務の標準化 ⑦ベンチマーキング ⑧追加受注の意思決定 ⑨増分原価 ⑩CO2削減量

マネジメント・コントロール概念の再検討
-コントロール手段の多様化をめぐる問題を中心に-

新江孝・伊藤克容
Summary
会計以外のコントロール手段の重要性が認識されるようになった結果、従来の会計中心のMC観以外に、様々なコントロール手段のパッケージとしてMCをとらえるアプローチが多く見られるようになっている。本稿では、コントロール・パッケージとしてMCSを考察することを促した諸要因について考察し、代表的な研究例について、それらの要因がいかに影響しているかを検証した。
Key Words
①コントロール・パッケージ ②マネジメント・コントロール(MC) ③サイバネティック・コントロール・システム(CCS) ④コントロール手段 ⑤インフォーマル・コントロール