「原価計算研究《 バックナンバー

2011年 Vol.35, No.1 (通算第69冊)

情報処理アプローチからみた管理会計の現状と可能性

小沢浩
Summary
本稿では,生産プロセスに情報処理アプローチを適用し,管理会計に期待される機能,それを代替する他の手段,および,現状において管理会計が果たしている役割を示す。また,情報システムの潜在的可能性と,管理会計による情報システム活用の現状を示す。これらを通じて,管理会計を変革する際に向かうべき一つの方向を展望する。
Key Words
①情報処理アプローチ ②相互依存性 ③上確実性 ④情報技術 ⑤生産プロセス

生産活動の標準モデルによるリアルタイム原価管理

西岡靖之
Summary
リアルタイム原価管理では,その時点で入手可能な最新の情報を利用した原価や収益情報を活用する。本稿では,原価計算と生産スケジューリング技術を統合し,将来予想される収益から現時点での製品や仕掛品の理論的な価格を求め,リアルタイムに原価と収益を可視化する計算方法と,その前提となる製造間接費の考え方を示す。
Key Words
①リアルタイム会計 ②ITシステム ③PSLX標準モデル ④オブジェクト指向 ⑤ミニ・プロフィットセンター ⑥費用収益対応の原則 ⑦間接費非配賦ポリシー ⑧製造可能価値

活動量と原価の統合理論
*Paired Costing から Triplet Costing へ*

外山咊之
Summary
これまで,活動量と単位原価の関係を構造マトリクスをベースとするActivity And Architecture Based Costingとして追求してきた。これはいわば,活動量と単位原価をペアーとする(Paired Costing)ものである。今回,これらの関係を,活動量の連鎖ドメインと,単位原価の連鎖ドメインととらえ,それらの対応個所の積を算出すると個別総額を三つ揃え(Triplet Costing)で得られることに気付いた。その延長と合わせて報告する。
Key Words
①三位一体構造 ②Paired Costing ③Triplet Costing ④原価分解能 ⑤真の見える化 ⑥構造マトリクス ⑦Complexity Index ⑧相同構造 ⑨俯瞰構造 ⑩知の統合

ITの構造およびコスト・マネジメントの変遷

溝口周二
Summary
ITのオープン化,ネットワーク化などで,従来型の取引構造,企業間関係はビジネス・プロセスを大きく改革し,これがまたIT構造を変化させるというダイナミックな構造変化を遂げつつある。ITの構造変化がIT投資にどのような影響をもたらすのかを考察し,ITコストの原点となるIT投資評価の評価要因を考察する。
Key Words
①ITコスト ②IT投資評価 ③チャージバック・システム ④アウトソーシング

原価企画の形成と伝播
*1950年代を中心に*

丸田起大
Summary
わが国における原価企画は,主に1950年代後半に,家電・自動車・機械などの産業で設計原価管理の技法として,目標原価設定の控除法や積上法,目標原価割付の原価要素別法や機能部品別法など,それぞれの文脈や組織的課題に応じて,当初から多様な実践が形成されていたが,当時の実務雑誌や実務書,および航空機産業出身のコンサルタント指導の研究会や有料講習会などの業種横断的な交流の場を通じて伝播していった。
Key Words
①原価企画 ②設計原価管理 ③業種横断的研究会 ④航空機産業出身コンサルタント ⑤管理会計の商品化

総合的利益管理活動としての原価企画の生成プロセス
*トヨタの事例を用いて*

諸藤裕美
Summary
原価企画の生みの親であるトヨタの原価企画が「総合的利益管理活動《へと発展したプロセスを明らかにする。その際,総合的利益管理活動に有用であると考えられる自律的組織を支えるシステムの要素が,原価企画システムの発展過程でどのように満たされていったのかについて,また,既存研究で示されていなかった利益管理活動への発展の経緯についても明らかにした。
Key Words
①原価企画 ②総合的利益管理活動 ③トヨタ ④自律的組織 ⑤生成プロセス ⑥市場志向 ⑦ミクロ・マクロ・ループ ⑧TQC ⑨長期経営計画 ⑩車種グループ対象

事業部間資金融通の測定と評価
*化学メーカー15社セグメント情報データにもとづく分析*

高見茂雄
Summary
本論文は化学メーカー15社の有報データを用い,「効率的内部資本市場は企業価値向上に貢献しているか《という問いに答えることを目的とする。調べた範囲内では,「金のなる木《から「問題児《への事業セグメント間典型的資金融通パターンは,現実にはあまり見られず,逆説的に,非効率資金補填が企業価値減少につながることは有意に検証できた。
Key Words
①内部資本市場 ②事業セグメント ③資金融通(資金吸上・資金補填) ④総合化学グループ・機能品グループ ⑤財務制約度(財務余裕・財務困窮) ⑥企業価値増加・減少

自律的組織の企業グループ内組織間協働にみる利益帰属の微調整
*鹿児島エレクトロニクスの事例から*

鈴木寛之
Summary
本稿の目的は企業内協働に対して協働体全体利益の帰属・測定システムを構築している企業がグループ内組織間協働を行った場合に,当該グループ内組織間協働体全体利益の帰属・測定システムがどのように構築・微調整されるのかを検討することにある。京セラではグループ内組織間協働に際し,企業内および企業グループ内組織間の正常利益概念を考慮した利益帰属・測定システムの構築・微調整がなされていた。
Key Words
①アメーバ経営 ②時間当たり採算制度 ③利益帰属 ④正常利益 ⑤自律的組織 ⑥経営管理部 ⑦営業口銭 ⑧企業グループ内組織間協働

要素技術特化型水平分業ネットワークにおけるビジネス・プロセス・マネジメント
*「磨き屋シンジケート《の事例分析をもとに*

山口直也
Summary
本研究は,「磨き屋シンジケート《と呼ばれる要素技術特化型水平分業ネットワークの事例を取り上げ,管理会計機能を重視したビジネス・プロセス・マネジメント(BPM)の視点からその特徴と課題を明らかにするとともに,水平分業ネットワーク固有の管理会計システムの必要性について論じている。
Key Words
①ビジネス・プロセス・マネジメント ②水平分業ネットワーク ③磨き屋シンジケート ④要素技術 ⑤キャパシティ ⑥ケイパビリティ

予算管理への影響要因
*予算編成・目標の困難化と戦略リンクの強化への影響分析*

横田絵里・妹尾剛好
Summary
本稿の目的は,東証一部上場企業を対象とする郵送質問票調査に基づき,予算管理が直面する状況・問題への対応に影響する要因を分析・考察することである。分析の結果,予算管理の特徴,他のマネジメントツールの利用,戦略,環境要因が対応の違いに一部影響を与えていること,社長のリーダーシップが様々な影響を与えていることが明らかになった。
Key Words
①予算管理 ②影響要因 ③脱予算経営 ④管理会計チェンジ研究 ⑤郵送質問票調査

マテリアルフローコスト会計における相互配賦法の適用

井岡大度
Summary
本論文では製造プロセスで発生した廃棄物をリサイクルする状況に関し,そのマテリアルロスの原価の測定・計算に,相互配賦法(連立方程式法)を適用することについて検討,提案を行う。なおその際,追加材料の投入あるいは加工を施し,再度投入される状況について,期首と期末のストックの処理も考慮し,如何に適用しうるかを示す。
Key Words
①マテリアルフローコスト会計 ②正の製品 ③負の製品 ④マテリアルロス ⑤リサイクル ⑥相互配賦法 ⑦連立方程式法

組織ライフサイクルとマネジメント・コントロールの変化

福島一矩
Summary
本研究の目的は,組織ライフサイクルステージ間のマネジメント・コントロールの相違を実証的に解明することである。分析の結果,成長期,成熟期,再生期の企業間で利用されるマネジメント・コントロールに違いがあることが確認された。さらに,組織ライフサイクルステージの移行によるマネジメント・コントロールの利用の変化が示唆された。
Key Words
①マネジメント・コントロール ②組織ライフサイクル ③診断型コントロール ④インターラクティブ・コントロール ⑤信条システム ⑥事業境界システム ⑦実証研究

非営利組織/公的組織におけるコスト変動に関する実証研究
*病床稼働率によるモデレート効果*

安酸健二・梶原武久・島吉伸・栗栖千幸
Summary
本研究の目的は,非営利事業を展開する非営利組織/公的組織のコスト変動に対して実証的にアプローチすることにある。国立病院から入手した財務・非財務データを組み合わせた分析の結果,営利企業では見られないコスト変動が観察された。この結果は,営利か非営利かという組織の設立目的がコスト変動に影響を与えていることを示唆する。
Key Words
①コスト変動 ②コストの下方硬直性 ③キャパシティー・コスト ④キャパシティーの利用度 ⑤非営利組織/公的組織 ⑥実証研究

病院経営におけるバランスト・スコアカード活用による組織行動の変化と影響
*福井県済生会病院における経年的事例研究*

渡邊直人
Summary
本研究の目的は,経年的な事例研究によりBSC活用および組織行動の変化過程を分析することである。福井県済生会病院に対する調査に基づいて定性的および定量的な観点から検討する。分析の結果,目標達成をサポートする職場環境の改善がBSC定着後の組織におけるルールとルーチンを適切に結びつけるためのバッファになりうることが示唆された。
Key Words
①バランスト・スコアカード ②変化 ③行動意識 ④制度 ⑤ルーチン ⑥ルール ⑦ルース・カップリング ⑧経年的事例研究