「原価計算研究《 バックナンバー

2012年 Vol.36, No.1 (通算第71冊)

価値移転的原価計算からの脱却
*価値創造的原価計算試論*

山本浩二
Summary
本稿では,原価計算の生成と発展を回顧し,歴史的な発展における新たな原価計算の提唱イベントを振り返るとともに,そこで追求されてきた原価計算思考を価値移転的原価計算として明確にすることによって原価計算に対する実務からの役割期待を再確認し,そのうえで今後の原価計算に求められる内容として,現代の製造環境と戦略を反映した価値創造的原価計算のフレームワークの試論を提示する。
Key Words
①価値移転的原価計算 ②価値創造的原価計算 ③VE ④スマイルカーブ化現象 ⑤原価企画 ⑥売値還元価値コスト ⑦開発付加価値

企業の原価計算実務に見る現代原価計算の特性

清水孝
Summary
わが国企業が実施している原価計算実務は,『原価計算基準』の原則的な規定に依拠するものばかりではない。例外的な規定を積極的に使用したり,規定にはない方法を採用することで,変化していく生産環境に対してできるだけ適切な価値移転計算を実施しようと努力している。本稿では,調査に基づき,こうした企業の取り組みについて明らかにする。
Key Words
①原価計算基準 ②実際原価計算 ③ERPシステムと原価計算 ④原価差異の処理 ⑤部門別原価計算 ⑥複数基準配賦法 

国際競争力と原価計算

村岡富美雄
Summary
日本の国際競争力が低下し続けているが,モノづくりに原価計算は重要な役割を果たす。原価計算は,単なる会計制度のひとつではなく,企業の競争力を左右する重要な戦略である。事業のグローバル化に伴い,多様化する管理会計のなか,現在の原価計算方法についても課題があるが,重要性は些かも変わらない。
Key Words
①日本の国際競争力の低下 ②モノづくりへの回帰が重要 ③「原価計算基準《は原価計算の憲法 ④原価計算は製造業の「一丁目一番地《 ⑤国際財務報告基準(IFRS)と原価計算

中間的原価計算対象に関する考察
-ドイツ原価理論とActivity-Based Costing との比較研究-

森本和義
 
Summary
本稿では,原価部門(原価場所)を中間的原価計算対象とする代表として,Gutenbergの生産・原価理論を取り上げ,また活動を中間的原価計算対象とするABCに関しては,NoreenおよびBanker and Hughesの数式モデルを取り上げる。そして,両者の比較研究を通じて,中間的原価計算対象を設定する意義について模索している。
Key Words
①2段階原価配賦 ②原価部門別計算 ③ABC ④中間的原価計算対象 ⑤原価関数の線形性 ⑥全部原価計算

サプライチェーンの特性に適合するコスト・マネジメント

皆川芳輝
Summary
本研究では,サプライチェーン間競争が激化する中,いかなるコスト・マネジメントが競争優位に役に立つかを考察する。具体的には,成長製品を供給するサプライチェーンと成熟製品を供給する企業間ネットワークに分けてそれぞれについて消費者ニーズの充足に有用なコスト・マネジメントを明らかにする。
Key Words
①サプライチェーン間競争 ②ライフサイクル・コスト分析 ③顧客サービス活動コスト分析 ④機能シフト ⑤サプライチェーン結合利益分配

日本企業における原価企画の探索的研究
*製造業と比較したサービス業の実態*

妹尾剛好・福島一矩
Summary
近年,わが国サービス業における原価企画の利用可能性を検討する萌芽的研究が行われている。しかし,その利用に影響を与える要因は十分に明らかにされているとは言えない。そこで,本稿では郵送質問票調査に基づき,わが国サービス業における原価企画の利用に影響を与えるコンテクスト要因について,製造業との比較を通じて探索的に明らかにした。
Key Words
①原価企画 ②サービス業 ③製造業 ④コンテクスト要因 ⑤郵送質問票調査 ⑥意思決定環境 ⑦組織コンテクスト ⑧標準原価計算 ⑨直接原価計算 

スタートアップ企業における予算管理システムの有用性

新井康平・梶原武久・槙下伸一郎
Summary
本論文では,スタートアップ企業における予算管理システムの有効性について,経験的な調査を実施している。先行研究が限られたサンプルでしか調査を実施していないとこに対して,本論文では,ひろくスタートアップ企業からデータを収集した。結果として,スタートアップ企業における予算管理システムの採用は早期の黒字化に有意に影響するという証拠を得た。
Key Words
①スタートアップ企業 ②予算採用の決定要因 ③予算採用の効果 ④経験的研究 ⑤黒字化

事業環境・事業戦略と経済性評価技法との整合性
*経済性評価技法多様性の説明理論構築に向け*

清水信匡
Summary
本稿では,質問票調査の結果をもとに,経済性評価技法の選択を事業環境の影響と事業の戦略タイプの相違によって説明を試みた。事業環境の影響では,(1)環境の複雑性,(2)上確実性,(3)生産ラインの自動化が評価技法の選択に影響していることがわかった。事業の戦略タイプとの関係では,分析型タイプであるかどうかが評価技法の選択に影響していることが明らかになった。
Key Words
①資本予算 ②設備投資 ③経済性評価技法 ④事業戦略 ⑤戦略タイプ ⑥事業環境 ⑦ロジット分析

デュポン社における割引キャッシュ・フロー法の提唱とその意義

高梠真一
Summary
本稿では,20世紀中期のデュポン社において,割引キャッシュ・フロー法がベンチャー事業投資案の評価のために,いかに利用されようとしたあかについて,同社を取り巻く企業環境を考慮しながら,できる限り一次資料に基づいて検証すると共に,管理会計発展における割引キャッシュ・フロー法のもつ機能とその意義について再検討する。
Key Words
①割引キャッシュ・フロー ②投資利益率 ③ベンチャー事業投資案 ④ベンチャー事業価値 ⑤事業部制組織 ⑥委員会組織 ⑦管理会計の適合性喪失

戦略的提携における組織間マネジメント・コントロール
*共同開発を中心に*

窪田祐一
Summary
戦略的提携では,組織間関係に固有のコントロール問題が存在するなか,パートナー企業との組織間成果を高めることを目指す。本研究は,日本企業の共同開発における戦略的提携の実施段階の取り組みを対象に,モニタリング,協働,信頼,学習,組織内インターラクションといった要因が組織間成果に与える影響について明らかにした。
Key Words
①組織間マネジメント・コントロール ②インターラクティブ・コントロール ③戦略的提携 ④共同開発 ⑤組織間成果

管理会計システムの導入による組織統合と戦略実施
*京セラミタにおけるアメーバ経営導入のケース*

谷武彦・窪田祐一
Summary
M&A後に,買収企業は被買収企業にマネジメントコントロール・パッケージとしての管理会計システムを導入することがある。新たな戦略の実施には組織変革を必要とし,このために管理会計システムが役立つ可能性がある。本研究は,京セラミタのアメーバ経営導入のケースにより,戦略実施や組織統合に対する管理会計システム導入の有効性を明らかにしたい。
Key Words
①アメーバ経営 ②マネジメントコントロール・パッケージ ③M&A ④組織統合 ⑤戦略実施 

アメーバ経営導入時における採算表フォーマットの形成プロセス
*電子機器メーカーA社のケース研究*

渡辺岳夫
Summary
ケース研究により,アメーバ経営システムにおける具体的な会計処理の方法が明らかにされた。また,時間当たり採算表のフォーマットが形成されるプロセスを描写することを通じて,そのフォーマットが,特定の認知的・行動的効果の必要性を受け,また固有の環境要因の影響を受け,独自性を帯びる経緯が明確にされた。
Key Words
①アメーバ経営システム ②時間当たり採算表 ③認知的・行動的効果 ④影響システム ⑤社外出荷 ⑥社内売買 ⑦技術口銭 ⑧管理部門諸経費

日系多国籍企業における国際振替価格管理
*国際振替価格管理システム構築の手順*

梅田浩二
Summary
本稿の目的は,国際振替価格管理システムの構築に関する提言を行うことである。多国籍企業は,国際税制への対応と海外子会社の業績管理の両立を意識した振替価格のコントロールを行う必要があるが,そのためには明確な方針と透明性の高いシステムが上可欠である。本稿は,システム構築における事前の意思決定事項について検討を行うとともに,具体的なシステム構築の手順を示す。
Key Words
①国際振替価格管理 ②移転価格税制 ③独立企業間価格算定法 ④プロセス原価計算 ⑤海外所得移転 ⑥所得差額の調整

わが国製造業におけるマネジメント・コントロールによる製品イノベーションの促進に関する実証研究

福島一矩
Summary
本研究の目的は,わが国製造業において,マネジメント・コントロールが製品イノベーションの促進に与える影響を実証的に明らかにすることである。郵送質問票調査に基づく分析の結果,フリーライダー志向の蔓延を回避・予防することで,対話型コントロールの利用や組織学習を促し,漸進的イノベーションを促進できる可能性が示唆された。
Key Words
①対話型コントロール ②診断型コントロール ③フリーライダー志向 ④過度な内向き志向 ⑤組織学習 ⑥革新的イノベーション ⑦漸進的イノベーション

管理会計変化研究の対象の概念規定に関する考察
*その曖昧性と多様性について*

浅田拓史
Summary
本稿では,コンティンジェンシー理論,制度理論,アクターネットワーク理論,フーコーの理論などを用いるアプローチごとに先行研究を分類し,それぞれにおいて管理会計変化研究の対象がどのように規定されてきたかについて考察した。その結果,管理会計変化研究の対象は必ずしも厳密に規定されているものではないが,対象についての理解に多様性があることが明らかとなった。
Key Words
①管理会計変化研究(management accounting change study) ②変化の対象(object of change) ③曖昧性 ④多様性