「原価計算研究《 バックナンバー

2013年 Vol.37, No.1 (通算第73冊)

影響システムとしての管理会計研究の新地平
*ポジティブ心理学との融合を目指して*

渡辺岳夫
Summary
影響システムとしての管理会計とポジテイブ心理学の融合を目指し,両者における重要な概念間の関係を実験室実験を通じて探索した。その結果,ミニ・プロフィットセンター・システムの最大の特徴である利益情報の提供によって,組織成員にパーソナリテイ上の問題があっても,その自己効力感を促進可能であることを明らかにした。
Key Words
①影響システム ②ポジテイブ心理学 ③ミニ・プロフィット・センター ④利益情報 ⑤内的帰属 ⑥自己効力感 ⑦レレパンス・ロスト ⑧理論と実務の乖離論

臨床会計学の構想

澤邉紀生
Summary
管理会計において研究者の科学知と実務家の実践知を媒介する臨床知を集積し体系化する「場《として,臨床会計学の構想を提示する。臨床知のふたつの系譜について確認したうえで,構成論的アプローチによって設計・実施しているメタ・フィールドワークから得た知見を「固有世界《「身体性を伴った行為《「多義性《の3つの原理を鍵に説明する。
Key Words
①臨床会計学 ②臨床知 ③科学知 ④実践知 ⑤会計専門家 ⑥身体性 ⑦再帰性 ⑧多義性

フィードバック情報が作業パフォーマンスに与える影響
*Need for Cognitionを用いた実験的検討*

日置孝一・末松栄一郎・三矢裕
Summary
本研究では,フィードバック情報の頻度と形式,および認知欲求(Need for Cognition)という個人差と,作業パフォーマンスとの関係を検討した。高い認知欲求を持つ人は,財務情報を頻繁にフィードバックされても高いパフォーマンスを生み出せないが,非財務情報を加えれば,この傾向は低減することが示された。
Key Words
①情報のフィードバック頻度 ②フィードバックされる指標の形式 ③財務情報 ④非財務情報 ⑤認知欲求 ⑥実験手法

原価改善と原価企画の実践における連携
*製造業3杜の事例から*

畑井竜児・鈴木新・松尾貴巳・加登豊
Summary
本稿は,原価改善と原価企画の連携に焦点を当てる。これまで,原価改善と原価企画は,密接な関連をもつことが指摘されながら,その具体的内容は,必ずしも明確ではなかった。そこで本研究は,製造業企業3祉へのインタピュー調査を通じ,原価改善と原価企画が互いに影響しながら実施される具体的な実践を明らかにする。
Key Words
①原価改善 ②原価企画 ③コストマネジメント ④モジュール化

Jコスト論における会計上の利益獲得の視点と資金の効率的利用の視点

原慎之介
Summary
Jコスト論は,現場のリードタイム短縮効果を財務的数値と結びつけることで,問題の顕在化と改善効果を評価することを目的とした理論である。本稿では,原価低減に着目した会計上の利益獲得への貢献と,拘束される資金量に着目した資金の効率的な利用という2つの視点から,管理会計手法としてのJコスト論の解釈を試みた。
Key Words
①Jコスト論 ②Jコスト ③トヨタ生産方式(TPS) ④ジャスト・イン・タイム(JIT) ⑤会計リンクアプローチ

全体最適化に資するMFCAの拡張
*MFCAとTOCの相互補完性*

飛田甲次郎・中嶌道靖・木村麻子
Summary
マテリアルフローコスト会計(MFCA)は,これまで,資源生産性に資する環境管理会計手法として発展してきた。しかしながらMFCAの企業事例では,加工時間に関連するシステムコストの削減効果も期待されている。このような期待に応えるために,本研究ではMFCAとTOC(制約理論)の連携が検討され,その可能性を理論的に説明している。
Key Words
①マテリアルフローコスト会計(MFCA) ②TOC (制約理論) ③生産管理 ④全体最適化 ⑤コストマネジメント

介護施設経営法人の業績管理システム
*企業と社会福祉法人の比較*

尻無濱芳崇
Summary
本研究では介護施設経営法人の業績管理システムについて調査を行った。企業・社会福祉法人の両方で収益額・稼働率・費用額が中心的な業績測定尺度として利用されており,ケアの質の向上によって収益額・稼働率が改善するという説明のもと利用している法人も存在した。社会福祉法人では,収益額・稼働率の向上が社会貢献に結びつくと説明されていた。
Key Words
①介護 ②社会福祉法人 ③非営利組織 ④業績測定 ⑤マネジメント・コントロール ⑥使命達成測定尺度

組織能力構築における予算管理の役割

堀井悟志
Summary
本論文では予算管理の構造・手続きの組織学習,組織能力への影響を分析した。その結果,予算管理が組織学習の促進・組織能力の構築といった戦略的行動を引き起こし,さらに,環境変化によって編成当初の前提が崩れようとも,固定的に堅持される予算目標はその意義を失うことなく,戦略的行動の文脈として構造を提供し戦略的行動の促進を増強することが明らかになった。
Key Words
①予算の作りこみ ②タイトな予算コントロール ③予算目標の固定化 ④組織能力 ⑤組織学習 ⑥アンケート調査

日本企業における予算に基づく業績評価に関する考察
*主観的評価に焦点をあてて*

妹尾剛好・横田絵理
Summary
本稿は郵送質問票調査の結果に基づき,主観的評価に焦点をあて,予算に基づく業績評価が予算の目的に対する効果に与える影響を探索的に分析した。分析の結果,主観的調整を含む評価は,ボーナスとのリンクが予算による垂直的コミュニケーション機能の向上という効果に与える影響を高めるが,予算による計画機能の向上という効果を直接的に低下させることを明らかにした。
Key Words
①予算 ②業績評価 ③主観的評価 ④ボーナスとのリンク ⑤脱予算経営(Beyond budgeting) ⑥固定業績契約 ⑦郵送質問票調査

管理会計研究のエビデンスを統合する
*メタ分析の可能性*

北林孝顕・藤原靖也・福嶋誠宣・新井康平
Summary
本論文の目的は,管理会計研究におけるメタ分析の有効性を示すことである。メタ分析は幅広い研究領域で有効であると認識されていながら,管理会計研究ではほとんど採用されていない。そこで本論文では,資本予算研究における経済性評価技法の普及というテーマを取り上げ,実際にメタ分析を実施し,その有効性を議論する。
Key Words
①メタ分析 ②システマティック・レビュー ③研究方法 ④資本予算 ⑤経済性評価技法

産業クラスターへの管理会計技法の適用

高橋賢
Summary
現在,産業クラスターに関する研究は,地域経済論や集積論における研究は数多く行われているが,管理会計の視点から行われているものはほとんど無い。産業クラスターには,ビジョンや戦略の共有・理解・伝達や,経済的効果を測定する仕組みが必要である。この仕組みについては,管理会計技法を適用する余地がある。本稿では,特に産業クラスターに対するBSCの適用について議論した。
Key Words
①産業クラスター ②産業集積 ③地域的サプライチェーン ④BSC ⑤戦略マップ