「原価計算研究《 バックナンバー

2013年 Vol.37, No.2 (通算第74冊)

予算管理研究に関する展開
*予算スラック概念を中心に*

伊藤正隆
Summary
多くの組織において参加型予算が採用されている。そのような参加型予算では,「予算スラック《の形成が予算管理の有効性を著しく害する問題として常に議論されており,現在でも多くの企業において存在する問題である。そこで本報告では,これまでの予算スラック研究において考慮されていない点は何かを主題として先行研究をレビューし,考察を加えた上で今後の研究の方向性を示している。
Key Words
①参加型予算 ②予算スラック ③非効率性のコスト ④除去によるコスト ⑤予算スラックのコントロール

予算管理の運用方法と情報共有およびその効果に関する実証研究

岸田隆行
Summary
本研究では2012年5月に行った郵送質問票調査をもとに,予算管理の双方向的利用およぴ予算参加が情報共有を媒介として,業務改善や予算管理の有用性認知に影響を与えるというモデルを統計的に検証した。その結果,モデルはほぼ受容され,予算管理が運用方法によって業務改善やその有用性認知に正の影響を与えることが確認された。
Key Words
①予算管理 ②双方向型コントロール・システム ③参加型予算 ④垂直的情報共有 ⑤実証研究 ⑥郵送質問票調査 ⑦構造方程式モデリング

EVMを用いた予実差異の原因分析の可能性
*実行段階での資本予算の管理のために*

中村正伸
Summary
実行段階での資本予算の管理において,資本予算の投資対象としてのプロジェクトのマネジメントツールであるEarned Value Management(EVM)に,変動予算の手法を取り入れることにより,予実差異の原因分析を行える精微な予算管理が可能となる。これにより,実行段階での資本予算の管理について,具体的な手法を示すことが出来た。
Key Words
①実行段階での資本予算の管理 ②資本予算の管理プロセス ③プロジェクトのマネジメント ④Earned Value Management (EVM) ⑤変動予算 ⑥変動予算としてのEarned Value (EV) ⑦差異の原因分析

マネジメント・プロセスの側面からみた環境配慮型設備投資の現状と課題

山根里香・小倉昇・國部克彦
Summary
本研究では,環境配慮型設備投資をマネジメント・プロセスの側面から捉え,質問票調査に基づく検証を行った。設備投資マネジメント・プロセスの構成要因として,「多面的な事前評価《,「組織横断的な検討《,「事後評価の実施と事例共有《が抽出され,設備投資のパフォーマンスに異なる影響を及ぼすことが明らかとなった。またこれらの構成要因は,戦略や上確実性などの状況要因に影響を受けることも明らかとなった。
Key Words
①環境配慮型設備投資 ②設備投資のマネジメント・プロセス ③多面的な事前評価 ④組織横断的な検討 ⑤事後評価の実施と事例共有 ⑥戦略 ⑦上確実性

わが国企業の投資意思決定におけるステークホルダーの影響

北尾信夫
Summary
90年代後半以降,わが国では株式持合の解消傾向が顕著になり,外国人株主や機関投資家が増加した。時を同じくして,投資経済性評価に,株主価値計算と関係の深いDCF法を利用する企業が増えている。本稿ではサーベイ結果をもとに経営者の意思決定にステークホルダーの価値観がどのような影響を及ぼすか論じた。
Key Words
①資本予算論 ②企業統治論 ③投資経済性評価 ④DCF法 ⑤回収期間法 ⑥ステークホルダー ⑦ガバナンス ⑧利用実態調査 ⑨パス解析

医療法人における管理会計実践の法人規模別状況

荒井耕・尻無濱芳崇
Summary
診療報酬抑制や経営多角化を背景として医療界でも管理会計の導入が課題であるが,実践能力及び必要性の観点から法人規模との関係が注目される。法人内施設事業及ぴ施設内部門両レベルでの各種管理会計実施率及び利用度は,大規模法人の方が高いことが明らかになったが,とりわけ総収益額規模との関係が強いことが判明した。
Key Words
①医療法人 ②病院 ③管理会計 ④規模 ⑤診療報酬抑制 ⑥経営多角化 ⑦経営管理

医療組織の業績管理における非財務情報の補完的効果
*探索的研究*

藤原靖也・松尾貴巳
Summary
本論文では,医療組織の業績管理システムにおける非財務情報の有効性を医療専門職の特性と関連付けて探索的に検討している。医療組織における業績管理システムと医療専門職の専門職志向との整合性の確保は重要な課題である一方,有効な業績管理システムの詳細については研究途上にある。本論文は,当該課題について非財務情報の補完的効果に焦点を当てて有効性を議論している。
Key Words
①医療組織 ②業績管理 ③医療専門職 ④専門職志向 ⑤DPC ⑥非財務情報 ⑦補完的効果

テンションの調整過程と組織成果との関係に関する研究
*公立病院の経営改革の事例をもとに*

近藤隆史・乙政佐𠮷
Summary
本稿では,変化する経営環境に対応する上で抜本的な経営改革を迫られる組織が,組織に内在する「テンション《をどのようにして調整しながら,財務的な成果につなげようとしているのかを,医師による専門性の追求と組織目標へのコミットメントとの両立に迫られた,長崎県精神医療センターの事例研究を通じて明らかにする。
Key Words
①テンション ②マネジメント・コントロール ③管理的権限 ④専門職的権限 ⑤公立病院 ⑥経営改革

特性要因図を活用した戦略のカスケード
*医療機関でのアクションリサーチに基づく検討*

関谷浩行
Summary
本研究の目的は,戦略のカスケードについて特性要因図を活用した応用可能性を探ることにある。そこで,本研究では,海老吊総合病院でのBSC導入に伴うアクションリサーチの事例を取り上げる。結果として,特性要因図を活用した業績評価指標の作り込みを行うことで,現場の職員が理解しやすく紊得感が得られる成果が得られた。
Key Words
①バランスト・スコアカード(Balanced Scorecard:BSC) ②カスケード(cascade:落とし込み) ③特性要因図 ④医療機関 ⑤アクションリサーチ(action research) ⑥病院の委員会 ⑦戦略的実施項目

多面的目標達成に対する心理構造の特性
*福井県済生会病院の事例研究*

渡邊直人
Summary
本研究は組織成員の多面的な目標の達成に対する心理構造の特性を実証的に解明することを目的とする。分析の結果,多面的な目標の達成には学習意識や財務意識が影響を及ぼすことがわかった。また,学習意識は業務に対する自律性から影響を受けることも発見した。ただし,患者意識は目標達成に対して直接的な影響を及ぼさないことがわかった。
Key Words
①多面的目標達成 ②業績測定システム ③心理構造 ④財務意識 ⑤患者意識 ⑥学習意識 ⑦自律性

日本における心理学理論をもちいた管理会計学の研究
*動機づけ理論を中心に*

王志
Summary
本研究は日本の管理会計において心理学理論を用いる研究の方向性を示唆するための現状分析である。1980-2011年において,学術5誌における動機づけを議論した論文はわずか22本である。そのうち,自己決定理論が多く用いられており,その理由については日本企業における自律的組織の追求にあると結論づけた。
Key Words
①自己決定理論 ②期待理論 ③要求水準理論 ④目標設定理論 ⑤認知的上協和理論 ⑥組織公正理論 ⑦帰属理論 ⑧個人一環境適合理論 ⑨自律的組織

日本企業におけるCSR促進のための マネジメント・コントロール・システム
*12杜とのインタビュー調査にもとづく実態分析*

細田雅洋・松岡孝介・鈴木研一
Summary
本稿では,CSR促進のためのマネジメン卜・コントロール・システム(MCS)の実態を明らかにすることを目的として日本企業12社とインタビュー調査を行い,その結果を考察した。調査結果から,CSRと財務的成果の両立を図るためのMCSのアプローチについての示唆が得られた。
Key Words
①企業の社会的責任(Corporate Social Responsibility) ②マネジメント・コントロール・システム(Management Control System) ③フォーマル・コントロール・システム(Formal Control System) ④インフォーマル・コントロール・システム(Informal Control System) ⑤インタビュー調査

ロアーレベルにおける利益目標の管理
*コントロール・レバーに基づくシティホテルK杜のケース・スタディ*

庵谷治男
Summary
ロアーレベルにおいて利益目標の管理を実践している組織が,MCSをどのように設計し利用しているのかをSimonsのコントロール・レバーに基づきケース・スタディによって明らかにした。結論として,信条システムが起点となって支配的に作用し,DCSとICSが併用されている場合,組織コンテクストに基づき支配的/抑制という関係性のなかでバランスがとられている可能性がある。
Key Words
①ロアーレベル ②MCS ③コントロール・レバー ④信条システム ⑤境界システム ⑥DCS ⑦ICS ⑧ケース・スタデイ

目標のストレッチ度と高い達成可能性を両立させる計画段階の経営管理

伊藤武志
Summary
目標のストレッチ度と高い達成可能性をともなった計画立案には,①戦略策定プロセスのフレームワークの理解,②目的や目標の提示による経営管理者の動機付け,③ガイドライン目標の提示による戦略検討機会の提供による組織の実力の向上,④ステークホルダーの要求水準と組織の実力、それらのギャップの認識が役に立つことを示す。
Key Words
①創発戦略 ②ストレッチ度 ③ガイドライン目標 ④組織の実力 ⑤戦略策定プロセス ⑥業績評価 ⑦問いかけ ⑧動機付け

金融機関・会計専門家の戦略計画担当者としての役割
*企業再生計画の修正を通じて*

吉川晃史
Summary
本稿の目的は,企業,会計専門家,金融機関の相互連携を通じて企業再生計画がどのように修正されているかの一端をエスノグラフイツクな定性的研究により明らかにすることである。本稿では,再生計画の修正を通じた金融機関・会計専門家の戦略計画担当者としての相互補完的役割が,中小企業の組織的問題を克朊する可能性が示唆された。
Key Words
①企業再生 ②戦略計画担当者 ③戦略計画と業績 ④金融機関のコンサルテイング機能 ⑤エスノグラフィー

移転価格税制が海外子会社の分権化に及ぼす影響

梅田浩二
Summary
本稿の目的は,移転価格税制の中核機能であ る独立企業間価格算定法の相違が海外子会社の 分権化に及ぼす影響について,仮説導出を試み ることにある。本稿は,先行研究による指摘お よび郵送質問票調査の結果から,取引単位営業 利益法の適用が,海外子会社への販売と生産機 能に関する意思決定権限移譲の抑止力となる可 能性を仮説として提示した。
Key Words
①取引単位営業利益法 ②基本三法 ③分権化と利益責任 ④申告調整 ⑤振替価格調整