日本原価計算研究学会第25回全国大会       1999年10月1日・山口大学

報告要旨

 

製造間接費配賦システムの状況適合性に関する実証的研究

渡辺岳夫(岡山大学)

経済学部C−201 14:45〜15:25

 

1.研究目的

 本研究の目的は、下記の問題意識から導出される分析命題についてモデルを構築し、実際のデータに基づき、それを検証することである。

 Activity-Based Costingの台頭の背景には、伝統的な原価計算システム、特にその配賦システムが陳腐化し、正確な製品原価情報を提供し得なくなった、ということが理由として挙げられている。しかし、そこでの原価計算システムの陳腐化とは、そもそも何を意味するのであろうか。

 原価計算システムを目的に対する手段として理解する思考形式は多くの論者によって支持されているところである。この場合、原価計算の本質は目的適合性として認識される。このような本質理解に基づけば、原価計算の陳腐化とはすなわち目的適合性の喪失であるといえる。ここで「目的」とは原価計算に対する役割期待のことであるから、目的適合性の喪失は、その役割期待に原価計算が応えることができなくなったときに生ずることになる。ABC論に沿って製品原価計算システムについて考えた場合、利用主体が要求する正確性を有した製品原価情報を、現有する原価計算システムが提供し得なくなったときに、当該原価計算システムは目的適合性を喪失し、陳腐化したということができる。このことは、換言すれば、利用主体の役割期待を満足する範囲内であれば、原価計算システムが算出する製品原価情報の正確性がいくら低下しても、それをもって当該原価計算システムが陳腐化したということはいうことができないということである。本報告では、以降、製品原価情報の正確性に対する利用主体の要求度合のことを「要請写像性」と呼び、現有する原価計算システムが算出する製品原価情報の正確性のことを「実際写像性」と呼ぶことにする。

 

命題1=原価計算システムの目的適合性は、要請写像性の水準と実際写像性の水準が適合している場合に満足される

 

 上記の命題に従えば、要請写像性は原価計算システムの目的適合性を規定する一方の重要な要因である。しかし、要請写像性、すなわち製品原価情報の正確性に対する要求度が、いかなる要因あるいは環境によって、いかなる影響を受けるのかは、必ずしも十分に明らかにされていない。

 

命題2=要請写像性の水準は特定の要因および環境によって影響を受ける

 

 実際写像性、すなわち現有する原価計算システムの算出する製品原価情報の正確性は、当該原価計算システムの構造精度の高低のみによって規定されるわけではない。構造精度が非常に高いシステムであっても、特定の要因によってネガティブな影響を多大に受けている場合、そのシステムの実際写像性の水準は低いということもあり得る。ここで実際写像性の水準にネガティブな影響を及ぼす要因として考えられるのは製造間接費である。製造間接費のビヘイビアが、幾つかの文献において実証されているように、製品の多様性等に起因する諸種の取引変数によって説明可能であるならば、それらの取引変数を計算構造に反映させていないシステムの実際写像性の水準は、製造間接費の発生額が増大すれば低下するといえる。

 

命題3=実際写像性の水準は、製造間接費のビヘイビアが諸種の取引変数によって説明可能な場合、それによって影響を受ける

 

2.分析結果

 

図1 要請写像性局面のパス・ダイヤグラム−命題2に基づくモデル分析−

   −図省略−

 

図2 実際写像性局面のパス・ダイヤグラム−命題3に基づくモデル分析−

   −図省略−

 

図3 目的適合性の満足・喪失モデル−命題1に基づくモデル分析−

   −図省略−

(報告当日に詳細な資料を配布する予定です。)