日本原価計算研究学会第25回全国大会       1999年10月1日・山口大学

報告要旨

 

競争力の維持・向上と管理会計手法

牧戸孝郎(名古屋大学)

木村彰吾(名古屋大学)

経済学部C−202 14:00〜14:40

 

1.本報告の目的

 企業の競争力と経営手法についての実態を把握するために実施したアンケート調査に基づいて、競争力の維持・向上のフレームワークを提示し、競争力の維持・向上に寄与する管理会計手法のあり方について考察する。

 

2.アンケート調査の概要と分析結果

 調査対象は日本の証券取引所に一部あるいは二部上場の製造企業1,344社、調査時期は1998年1〜2月、調査方法は質問表送付によった。アンケートでは、国際競争力の指標としてグローバル・マーケット・シェア、競争優位にある要因、競争上重視している業務活動、最重視している原価管理活動、製品開発・購買・製造・販売・経営システムに関わる諸手法および諸活動の実施状況を尋ねた。1.344社のうち215社の回答を得た。

 単純集計からは、シェアは高いが成熟期にあること、製品開発を最重視する企業が多いこと、原価企画を実施しながらも原価管理活動としては原価改善を最重視することなどが明らかになった。さらに、シェアを被説明変数、経営手法を説明変数として数量化理論T類による多変量解析を行った結果、グループ経営やエンパワーメントに関わるような経営手法が競争力の維持・向上に寄与する傾向のあることが明らかになった。

 

3.競争力の維持・向上と管理会計手法

(1)分析結果のインプリケーション(競争力の維持・向上のフレームワーク)

 成熟期の段階にあって環境変化が激しいような産業では、現行製品をより低コストで生産・供給できるようなイノベーションや転換期に向けての新製品を開発するというイノベーションが競争のポイントとなると考えられる。この傍証として「独自の機能」、「コスト」が競争優位の要因であると回答する企業群のシェアが高いことがあげられよう。

 イノベーションの源泉は組織メンバーの創造性にあるので、エンパワーメントはイノベーションを起こす原動力と言える。また、グループ経営もイノベーションの原動力となりうる。それは外部の経営資源の活用が組織の創造性を高めるからである。特に、自社内での効率化を目指す経営手法は競争力の維持・向上に寄与していないので、効率化の源泉は自社外に求める必要がある。したがって、グループ経営はより一層の効率化を可能にするイノベーションの源泉としても重要な意味を持つのである。

 イノベーションの成果は新製品や効率化という形で現れ、それぞれ「独自の機能」と「コスト」の競争優位の要因をもたらし、競争力を高めるのである。以上のことは図1のようなフレームワークで示されよう。

 −図1省略−

 

(2)競争力の維持・向上に寄与する管理会計手法

 図1のフレームワークで示されたように「コスト」優位は競争力に直結するので、原価管理に有用な管理会計手法は競争力の維持・向上に寄与する。ただし、原価管理は購買・生産・販売のプロセス全般にわたって行わねばならないので、原価改善・維持をもとに、購買・販売プロセスに適用できる原価管理手法が必要である。また、ABCは正確な原価算定という点で原価管理に貢献するが、やはり購買・生産・販売のプロセス全般のコストを測定できるようにする必要があろう。

 また、イノベーションとの関わり方からすれば、イノベーションを支援する管理会計手法も競争力の維持・向上に寄与する。イノベーションの支援はイノベーションの原動力となる経営手法(すなわち、グループ経営やエンパワーメントと関連する経営手法)を補完することによって実現される。したがって、年俸制のための業績評価、社内ベンチャー制における予算・業績評価、持株会社における予算・業績評価、グループ経営における予算・業績評価などの管理会計手法があげられよう。グループ経営やエンパワーメントは新しい経営手法であるので、それらを補完する管理会計手法の早急な開発と運用が必要である。

 そして、原価管理のための手法とイノベーションを支援する手法との適切なコンビネーションによって、競争力の維持・向上に寄与する管理会計システムが構築されよう。