日本原価計算研究学会第25回全国大会       1999年10月1日・山口大学

報告要旨

 

ドイツ原価計算の史的考察

中嶌道靖(香川大学)

経済学部B−201 14:00〜14:40

 

T.はじめに

 ドイツにおける原価計算史の代表的研究者であるDorn(1961)によれば、19世紀から20世紀初頭にかけてのドイツ原価計算史は経営経済学における原価理論に基礎付けられた原価計算確立への発展史として叙述されてきた。したがって、世紀転換期いわゆる確立以前の文献の取り上げ方を見ると、叙述自体は過去から現在へという時間の流れで書かれているものの評価としては現在から過去へという視点により断片的に取り扱っているに過ぎないと考えられる。経営経済学での原価計算発展史という点からこのような分析となるのは仕方がないと考えられるが、このようないわゆるアカデミックでの歴史をもってドイツ原価計算史全体が説明されているというのでは不十分である。原価計算が工場管理ツールでもあることから、企業特に現場で有用に使われたような原価計算実務を反映した原価計算史を見出すことが必要であると考える。

 本研究は世紀転換期に工場管理の担い手として活躍したドイツの技術者(Ingenieure)がドイツ技術者協会の協会誌(Zeitschrift des Vereines Deutscher Ingenieure: Z-VDI)に発表した論説を考察することによって、工場管理者としての技術者による原価計算を明らかにし、当時現場においていかなる原価計算が有用であり、彼らは何を問題としどのような観点から解決しようとしたのかを探り、経営経済学とは異なるドイツ原価計算の特色を明確にしようとする。

 

U.ドイツの技術者と工場管理

 19世紀後半になると工科大学を卒業し工学士(Diplom-Ingenieure)を取得した技術者が工場管理を中心とした企業管理者として新しく登場することとなる。技術者が企業にどのように導入・配置され、どのような役割を果たそうとしていたかを探り、技術者による原価計算の理論的背景を明らかにする。

 

V.技術者による原価計算

 

 ドイツ技術者協会の協会誌に掲載された賃金制度論・原価計算に関する論文の検討

(1) 20世紀初頭にはじまる賃金制度論

 ローワン(Rowan, J.)・ハルシー(Halsey, F.A.)に代表される割増給制に関する議論を通して、賃金制度をドイツの技術者がどのように考えたかを分析し、なぜ賃金制度に技術者が関心を持ち、その結果どのような労務費計算を展開しようとしたのかを考察する。

(2) Benjamin, L.(1903)による見積原価計算

 私見によれば、この論説は本協会誌最初の原価計算全体についての叙述である。この見積原価計算の分析を通して、ドイツ技術者の原価計算の特色を明らかにするとともに、原価計算史における見積原価計算の意義についても言及する。

(3) Meltzer, H.(1908)による原価計算制度

 技術者の知識と会計担当者の知識(簿記)とを接合させようと試みた論説である。

 完全に簿記と接合するような体系ではないが物量単位(物量単位当り原価)を併用した工業簿記のような原価計算制度を展開し、技術者のための原価計算として簿記(会計担当者)との融合を強調している。

 

W.おわりに

 

〔引用文献〕

Benjamin, L.(1903), "Sitzungsberichte der Bezirksveine:Kostenanschla¨ge in der Praxis des Fabrikanten".Z-VDI.

Dorn, G.(1961), Die Entwicklung der industriellen Kostenrechnung in Deutschland, Berlin.(久保田音二郎監修 平林喜博訳(1967)『ドイツ原価計算の発展』同文舘)

Meltzer, H(1908),"Kalkulation und Selbstkostenwesen", Z-VDI.