日本原価計算研究学会第25回全国大会 1999年10月1日・山口大学
報告要旨
ギデンス構造化理論と管理会計研究
上東正和(高岡短期大学)
経済学部B−201 14:45〜15:25
T.はじめに
「管理会計における技術的または数量的側面と社会的・組織的・行動的側面を結びつけることができなければ、それはどんな有益な目的にも役立たない」ことが指摘されるが、本報告では、管理会計研究の「計算構造・手続論」的な側面のみではなく、「組織的・行動的次元における管理会計研究」(1)をもその対象として議論を進める。
組織的・行動的次元における管理会計研究は、多くのパラダイムからアプローチされるため、こうした研究を進めてゆくためには、まずそのパラダイムについて体系的に明らかにしてゆく必要があると考えられる。そうしたパラダイムとして、機能主義、構造主義、解釈的アプローチ、批判理論、統合理論などがあるが、そのうち、本報告では、統合理論の一つである社会学者ギデンスの「構造化理論」の援用に焦点をあてて検討する。当該理論を援用した管理会計研究の成果をサーベイし、こうしたパライダイムによる研究の意義と限界に言及する。
(1)組織的・行動的次元における管理会計研究は、英国などで盛んであり、1976年にA.G.Hopwoodらによって創刊されたAccounting, Organizations and Society(AOS)誌などを媒体として行なわれている。本誌では、哲学や社会学をはじめとして、心理学、社会心理学、経済学などの社会科学における諸理論を援用した会計研究が蓄積されている。近年、同誌と類似の編集方針をもつ雑誌として、Accounting, Auditing and Accountability Journal(AAAJ)誌、Critical Perspectives on Accounting(CPA)誌、Accounting, Management and Information Technology(AMIT)誌などにおいても、このような研究はみられる。こうした研究は、わが国における会計研究にも多くの示唆を与えるものと考えられ、本報告もこうした研究に多くを依拠した。
U.ギデンス構造化理論の概要
1.社会理論の現状と展望
客観主義、主観主義
2.主体と構造の統合アプローチ
ギデンスの「構造化理論」の概要について、キー・ワードを中心に提示する。
「構造の二重性」、「構造化」
「相互行為」:「コミュニケーション」、「サンクション」、「権力」
「構造化の様相」:「解釈図式」、「規範」、「利器」
「構造」:「意味作用」、「正当性」、「支配」
V.ギデンス構造化理論と管理会計研究
ギデンス構造化理論を援用した管理会計研究についてサーベイする。
1.ギデンス構造化理論と管理会計研究
管理会計システム:「解釈図式」・「規範」・「利器」
・意味の次元:管理会計システムは、「経営者が過去の結果を解釈したり、行動を起こしたり、計画を立てたりする解釈図式」
・正当化の次元:「管理会計システムは、何が認められ、何が認められないかということを示す価値観や思想」
・支配の次元:「管理会計システムは、あらゆる階層の経営者が、他の組織成員を結びつけ管理する利器」
2.ギデンス構造化理論を援用したケース・スタディ
3.構造化理論のその他の適用領域
4.ギデンス構造化理論を援用した管理会計研究の意義と限界
W.結びにかえて
1.むすびにかえて
「構造化理論」は、「全体的な視点からアプローチ」すべきケース・スタディをガイドするのに有効であり、調査研究を方向づけ、限られた領域の特殊理論に対してその理論化の原理を提供する基礎理論としての潜在能力をもつことに言及する。
2.今後の課題
当該理論の立場から、今後の課題として、管理会計研究の具体的なテーマである以下の領域に言及する。
(1)企業予算、(2)ABC(活動基準原価計算)、(3)原価企画、
(4)振替価格、社内資本金etc.