日本原価計算研究学会第25回全国大会       1999年10月1日・山口大学

報告要旨

 

19世紀後期アメリカ鉄鋼会社における会計情報の作成・利用

高梠真一(久留米大学)

経済学部B−201 15:45〜16:25

 

 Alfred D. Chandler, Jr.,は、近代的経営管理組織発展の系譜として、19世紀中期の巨大鉄道会社−ウエスタン鉄道、ボルティモア・オハイオ鉄道、ニューヨーク・エリー鉄道、ペンシルベニア鉄道−を取り上げた(Chandler[1980])。そして、これらの巨大鉄道会社において展開された経営管理活動のために、会計情報が重要な役割を演じたことが検証されている(上總[1989]、中村[1994]、足立[1996]、高梠[1999])。さらに、Chandlerによれば、当時の鉄道会社の経営管理活動に役立つ会計機能が、鉄道の経営管理者を媒介として、19世紀後期の鉄鋼会社に伝播していったことが指摘されている(Chandler[1980])。

 しかし従来、経営管理に役立つ本格的な会計情報の作成・利用の問題は、19世紀末から20世紀初頭にかけて展開された科学的管理成立以降から論じられることが多く、それ以前は成行管理の時代として切り捨てられる傾向にあった。そして、投資利益率を軸とした予算の作成は、20世紀初頭のデュポン社やジェネラル・モータース社による会計情報の作成・利用の状況のなかで認識されてきた(田中[1982]、Johnson and Kaplan[1987])。

 本報告の目的は、20世紀初頭のデュポン社やジェネラル・モータース社で最初に行なわれたとされる投資利益率を軸とした予算の作成が、19世紀後期のアメリカ鉄鋼会社においてすでに実施されていたという事実を検証することである。

 具体的には、19世紀中期のペンシルベニア鉄道で展開された投資利益率を軸とした鉄道料金の設定と予算の作成という会計実務が、当時同鉄道で管区長としての経験を持っていたAndrew Carnegieを媒介として、19世紀後期の代表的鉄鋼会社であるカーネギー・スティール社やベスレヘム・スティール社などにいかに伝播し、どのように機能したかを、当時の一次資料に基づいて検討する。けだし、他の学問領域と同様に、会計領域においても、その論理を展開する場合には、その前にまず、事実を事実として確認することが必要であると考えるからである。

 

〔参考文献〕

足立 浩[1996]『アメリカ管理原価会計史−管理会計の潜在的展開過程−』晃洋書房

上總康行[1989]『アメリカ管理会計史(上巻・下巻)』同文舘。

高梠真一[1999]『アメリカ鉄道管理会計生成史−業績評価と意思決定に関連して−』同文舘。

田中隆雄[1982]『管理会計発達史−アメリカ巨大製造会社における管理会計の成立−』森山書店。

中村萬次[1994]『米国鉄道会計史研究』同文舘。

Chandler, Alfred D., Jr.[1980], The Visible Hand: The Managerial Revolution in Accounting Business, Boston: The Belknap Press of Harvard University Press.

Johnson, H.Thomas. and Robert.S.Kaplan[1987], Relevance Lost: The Rise and Fall of`Management Accounting, Boston: Harvard Business School Press.