日本原価計算研究学会第25回全国大会       1999年10月1日・山口大学

報告要旨

 

ロジスティクス・コストマネジメントの基本問題

阿保栄司(ロジスティクス マネジメント研究所)

矢澤秀雄(専修大学)

経済学部B−202 14:00〜14:40

 

1 従来の物流・ロジスティクス原価計算

 従来の物流原価計算体系、例えば、運輸省の物流コスト算定統一基準等において、輸送、保管、包装、荷役、流通加工、物流情報の要素活動で資源を消費したことを、まず支払形態別の勘定科目で把握する。これを再分類して、領域別コスト分類、機能別コスト分類、管理目的別にコスト分類をしていた。とくにABCでは、支払別のコストをコストドライバー総数で除し、1単位当たりの値を計算する。この原単位に特定の製品や特定の顧客の消費量を乗じて、その製品やその顧客のための物流費を計算する。ABCでは月次の実際操業度に基づく原単位を使用する。これは平均的な操業条件において全費用を顧客別・商品別の構成単位活動に還元している還元主義である。

 

2 物流・ロジスティクス原価計算の問題点

(1)複雑性に気付いていない

 実際的なオペレーションは時間的な複雑性に支配されている。時間によって繁閑の差が大きい。週間で見た場合でも週末に向けて業務量が増大する。月の単位でみると、5の日、10の日に業務量が増えている。また日毎に物流オペレーションのミックスが変化している。この変動こそ物流費を上昇せしめている真の原因の1つなのである。

(2) システム平面の制御力を評価できない

 物流システムは行為平面とシステム平面から構成される。物流活動を効率化することとは、オペレーションの効率化にとどまるだけではなく、政策変数の組み合わせを最適化することによってオペレーションを制御しているのである。在庫管理方針、輸送方針、拠点の立地、ロットの大きさ、販売方法などである。このようなシステム平面における制御の効果をコスト計算に反映できていない。

(3)サービスの原価計算ができていない

 その結果提供しているサービスの原価を算定できない。サービス水準を高めたらどれくらいのコストが上昇するのか。逆にサービス水準を下げたらいくらコストを節減できるのか。これを計算することが、従来の物流会計では不可能なのである。例えば、ある商品についてリードタイムを1日から2日に延ばしたら、いくら原価が安くなるのか。反対に2日から1日に短縮したらいくらコスト高になるのか。また取引のロットを大きくしたらコストはどれくらい変化するのか。製品の種類が変化したらどうなるのか。物流会計は要素活動の原価は計算できても、顧客サービスの原価を計算できないのが現状である。その結果顧客サービスを提供している側で収益性の測定に支障が生じるように、取引の相手に与える利益がどれ程になるかわからない。このため価格メカニズムが働かないことが最大の問題である。

(4)自己観察には不適であるが自己描写としては効果的である

 これは物流の原価計算に対する役割期待として、リアルタイムの状況把握を求めることができないということである。つまり、自己観察という役割期待に物流会計は応えられないのである。システムは時点時点での作動を自己観察しているが、物流会計には自己観察能力が備わっていないのである。勢い、自己観察は即物的データを使って把握する以外にない。では物流会計は何に適しているのか。実績の期間計算には役割を果たしている。つまり、物流活動に関する自己描写である。自己描写はロジスティクスシステムの全体もしくは各部門の自己準拠を促している経営管理の有力な一方法である。それではリアルな活動管理のためにはどのようなコントロール方式が有効だろうか。

 

3 活動管理と会計情報

 物流・ロジスティクス・サービスの測定値としては多元的な値を用いるのが現実的である。上記に述べた理由から物流会計の情報はリアルな活動管理には効果的でないからである。1の案として会計とバランススコアカードの併用がよいのではなかろうか。

 まず、会計としては物流プロセスの期間的なコスト把握になる。バランススコアカードに記載される測定値には、例えば、サービスについて、顧客特有の条件に対する達成率。生産性について、在庫やリサイクル利用、スループット−販売品目。時間について反応時間、現金の1回転する時間、在庫をスループットに変える時間。サービスと時間については、横軸に遅延日数をとり縦軸に累積注文数を目盛って注文曲線をプロットするなどがある。

 

[参考文献]

阿保栄司『サプライチェーンの時代−現代ロジスティクスの発展−』同友館、1998年。

阿保栄司「物流会計はなぜ役立たないか−ロジスティクスと複雑性−」『流通設計』 1999年4月。

阿保栄司・矢澤秀雄「ロジスティクス・コストの諸問題とその展望」『企業会計』1999年2月。