日本原価計算研究学会第25回全国大会       1999年10月1日・山口大学

報告要旨

 

セル生産方式の主要成功要因、組織成熟度、推進成果の関連性に関する研究

陸根孝(釜山外国語大学)

経済学部B−202 16:30〜17:10

 

T.はじめに

 本研究では、セル生産方式の主要成功要因や推進成果を測定することができる項目を提示し、これらの変数間の相互関連性を組織成熟度によって把握することにする。即ち、組織成熟度を異にする企業で、推進成果がどのように異なるかを明らかにするために調査を実施した。このための研究モデルは〈図表1〉のとおりである。

 

〈図表1〉研究モデル −図表1省略−

 

 本研究では、セル生産方式の主要成功要因を独立変数として、セル生産方式の推進成果を従属変数、そして組織成熟度を状況変数(moderating・variable)として想定し、それらの相互作用を明らかにすることを意図した。この点に関連して、次の二点を重点的に分析することにする。第一は、組織成熟度の高い企業と、低い企業間の推進成果の差異を検証する。第二は、そのような仮定の下で、組織成熟度のレベルによって、主要成功要因と推進成果間の関連性をとらえることである。

 

U.調査の概要

 本研究は、セル生産方式を推進する「すべての企業が成功するとは限らない」という基本仮説をもっている。これらのすべての企業がセル生産方式を推進したとしても必ずしも成功することではなく、既存の改善プログラムを実行した経験があり、変化を受容することができる組織底辺の能力のある企業が期待したとおりの高い成果を収める可能性が高いということを意味する。このような仮説を通して本研究では、組織成熟の程度を「組織変化において組織の事前の変化経験の程度及び組織変化の管理能力の総体」として認識し、組織成熟度によって主要成功要因と成果間の関連性を探索的に把握することを試みる。

 研究方式としては、アンケート調査を中心に直接インタビューの方法もあわせて行った。質問項目はいずれも五点リッカート・スケールで回答するよう設計したが、主要成功要因として19項目、推進成果として20項目、組織成熟度として9項目により構成した。

 調査の対象は、国内のセル生産方式を適用した企業で、測定の信頼度を高めるためにセル生産方式のプロジェクトに参加した経験のある係長クラス以上の管理職を対象にした。サンプルとした企業は90社であり、回答は40社から受取り、回答率は44.4%であった。

 本研究の分析対象企業を業種別に見ると、電子産業と産業財産業に属している企業が大部分を占めた。また、回答企業の従業員による標本分布では従業員数300人以上の企業が全体の83.3%を占めていて回答企業の大部分が大企業に属していることが分かった。

 

V.実証分析の結果

 

1.基礎統計量の分析

 セル生産方式の主要成功要因に関する回答項目の順位では、最も高いのが「設備の標示設定部分」(3.87)、「目で統制することができる情報伝達手段の整備」(3.60)、「チーム単位の成果評価」(3.53)などが重視されている。一方、「労組及び構成員の態度」(1.73)、「機械配置の柔軟性の程度」(2.60)、「生産活動における作業者の権限」(2.87)などが低位にあった。

 セル生産方式を推進した結果として得た成果項目に対する個別の統計量をみると、平均点数3.81(5点scale)となるのは、比較的満足できる成果を収めていると言えよう。その内容を個別にみると、「サイクルタイムの減少」(4.10)、「従業員一人当りの生産性の増加」(4.07)、「仕掛品在庫の減少」(4.03)などの側面では比較的に満足できる成果を得たが、逆に「データ処理の減少」(3.57)、「製品設計の改善」(3.53)、「従業員の満足度の増加」(3.50)などは比較的低かった。

 そして組織成熟度を測定するための「構成員間の業務協力程度」、「構成員の業務執行に関する規範及び手順の明確性」、「環境変化に対処する柔軟性の程度」などについて聞いた9項目の平均は3.89で、国内でセル生産方式を推進した大部分の企業が、比較的組織成熟度が高いレベルにあり、セル生産方式を推進したことが分かった。

 

2.妥当性分析及び信頼度分析

 本研究ではセル生産方式の主要成功要因と推進成果間の関連性を捉えるために、既存の研究に基づいて各変数の測定項目を新しく開発した。これらの新しく開発した主要成功要因と推進成果変数に対する概念的な妥当性を分析するために直交回転による要因分析を実施した。本研究では、質問に対する信頼度を検証するためにCronbach~αを利用した。分析対象はセル生産方式の主要成功要因として五つの要因、セル生産方式の推進成果として五つの要因、そして組織成熟度の項目により分析した。主要構成要素に対する信頼度を分析した結果、すべての要因に対する信頼度の計数が0.80となり、主成分(因子)について意味のある解釈を下すことができる。

 

3.組織成熟度による推進成果の差の検定

 本研究では、セル生産方式を推進するすべての企業が当初の計画通りの成果を収められるのではなく、組織成熟度によって違いが生じうるという仮説を持っている。すなわち、セル生産方式を推進する組織が予め漸進的な変化プログラムの経験が豊かなのか、変化に際して組織内部の変化管理体系及び能力が存在するかなどによって、推進成果は違ってくるというわけである。組織成熟度が高い企業が低い企業より組織変化において成功する可能性が高いと言えるため、本研究では組織成熟度による推進成果間の差を検証するためにt~testを行った。

 組織成熟度による推進成果の差を検証するために、組織成熟度の平均を基準として分析対象の企業を上下二つの集団に区別して、これらの集団間の推進成果の差を検証した。二つの集団についての推進成果の平均とともに、二つの集団間の平均差が有意なのかを調べるための差異検定(t~test)の結果が図表2に示されている。

 

〈図表2〉組織成熟度による推進成果の平均 −図表2省略−

 

 組織成熟度の高い企業集団と低い企業集団全体に対してt~検定を行った。また要因別の分析に意味のある差があるのかを調べるために、t~検定をした。その結果、両集団間では、すべての要因で有意な差があった。したがって、組織成熟度がセル生産方式の成功に影響を及ぼすことが分かる。

 

4.組織成熟度による主要成功要因と推進成果間の関連性分析

 回答企業の全体を対象に、主要成功要因と推進成果間の関連性を分析した結果を図表3に示した。これによると、多くの場合、主要成功要因と推進成果間の関連性において有意な差が確認されなかった。これは、対象企業の推進成果が、新しい次元である組織成熟度に基づいて分析される時、差が検出されうるということを意味する。組織成熟度別の相関関係分析の結果では、「すべての企業のセル生産方式の成功は組織成熟度と関連性がある」という仮説が支持されていることが分かる。

 

〈図表3〉企業全体を対象とした相関関係分析 −図表3省略−

 

〈図表4〉組織成熟度の高い企業の相関関係分析 −図表4省略−

 

 組織成熟度の高い企業においては、「下部構造の整備」、「自律的管理」、「チーム組織」といった3つの主要成功要因と成果間に、有意な相関関係が抽出された。ここで興味深いのは、チーム組織の場合において、すべての推進成果に対して負の相関関係が得られたということである。これについては2つの解釈が可能であろう。ひとつは、組織成熟度の高い企業の特性上、チーム組織が強ければ強いほど、成果が悪化するという解釈であり、もうひとつは、組織成熟度の高い企業の場合は、強いてセル生産方式へ転換する必要がないし、もう既に構成員の業務処理において有機的な関係を維持しているため、これらの要因に対する管理の必要性が他の要因に比べて相対的に低かったものと推測できよう。一方、「組織的没入」や「労組の影響」といった要因と成果間においては有意な差が確認されなかった。

 

〈図表5〉組織成熟度の低い場合の相関関係の分析 −図表5省略−

 

 〈図表5〉のとおり、組織成熟度の低い場合には、成功要因と推進成果間において有意な差が認められなかった。これらの結果は成熟度の低い企業が、急にセル生産方式を推進する場合、期待したとおりの成果を達成することができない可能性が高いということを示唆している。以上3つの分析に共通することは、すべての成功要因と在庫(資材)管理の改善成果の間には、何の関連性もないということである。

 結論として、セル生産方式を推進する企業が、当初期待したとおりの推進成果を収めるためには、結局組織成熟度に対する管理、すなわち革新的な雰囲気の造成、効率的なコミュニケーション構造の確立、業務処理上の有機的な協力関係造成などのセル生産方式の推進基盤を整備しなければならないと言える。