日本原価計算研究学会第25回全国大会       1999年10月2日・山口大学

報告要旨

 

環境配慮製品開発のためのマネジメント手法の統合

−コスト情報と意思決定のリンケージを求めて−

國部克彦(神戸大学)

経済学部第1大講義室 10:00〜10:40

 

1.報告目的

 1996年の環境マネジメントシステム規格ISO14001の発行を皮切りに、環境マネジメント手法は次々に開発され、精緻化されつつある。これらは、企業・事務所ベースの手法と、製品ベースの手法に区分される。本報告で対象とされる製品ベースの手法としては、DFE(環境配慮製品設計)、LCA(ライフサイクルアセスメント)、環境ラベル、ライフサイクル・コスティングなどの手法がすでに開発され、実際に応用されつつある。

 このなかでLCA、環境ラベルおよびDFEはISO14000ファミリーの中へ導入されている。しかし、これらの手法だけでは、環境保全に資することはできても、企業本来の活動である経済活動とは切断されてしまう。この限界を補う手法として環境会計があり、製品ベースの議論では、特に、ライフサイクル・コスティングに注目が集まっている。

 しかし、たとえライフサイクル・コスティングによって製品環境コスト情報を測定しえたとしても、それだけでは企業意思決定のための情報として十分ではない。決定的な要素が欠落している。本報告では、この環境会計では提供しえない決定的な情報は何かを明らかにした上で、それを提供する手段としてコンジョイント分析の可能性を議論し、それによって、環境配慮製品開発のためのマネジメント手法が、企業の意思決定目的のもとに統合されうることを主張する。

 

2.製品ベース環境マネジメント手法の限界

 DFE、LCA、環境ラベルという代表的な製品ベースの環境マネジメント手法に共通する欠点は、経済性評価の手法がビルトインされていないことである。これらの手法を利用すれば、環境負荷の少ない製品は開発できるであろうが、その採算性に関しては何も明らかにすることはできない。

 したがって、新製品開発においては、これらの環境マネジメント手法と原価企画やライフサイクル・コスティングなどの会計手法との統合的利用の必要性がしばしば指摘される。しかし、会計的手法によって環境配慮設計によって生じる増分コストがたとえ明らかになったとしても、コスト情報と環境負荷情報だけでは、経営者は十分な意思決定を行うことはできない。

 経営者は、環境保全機能を所与として、その所与の範囲内でコスト低減に努力することはできるとしても、追加的な環境保全機能が市場でどのように受け入れられるかについての情報を持たないからである。この問題を解決するためには、製品の持つ多様な環境属性を相対評価する手法が必要となる。そのための手法としてコンジョイント分析が注目される。

 

3.環境配慮情報評価ツールとしてのジョイント分析

 コンジョイント分析は、製品の他属性評価の方法として、マーケティング分野ではかなり一般的に利用される手法になっている。神戸大学の鷲田研究室(経済学部)と國部研究室(経営学研究科)では、昨年度より共同で、日本で初めてLCA情報がコンジョイント分析によって市場でどのように評価されるかについて研究を開始している。これまでの研究では、家庭用クーラーの分析を行い、製品属性として、冷暖房パワー、電気代改善、リサイクル率、温暖化負荷改善、大気汚染負荷改善、製品価格を識別し、1単位あたりの能力改善に対して、市場がどのように反応するかを調査した。その結果、リサイクル率を含むLCA情報に対して市場がポジティブに反応することが示された。

 コンジョイント分析を他の製品にも拡大して適用し、汎用性のあるLCA評価ウェイトが得られるならば、経営者は、LCAから得られる環境負荷情報、環境会計から得られる環境コスト情報、および市場での環境負荷に対する支払意志額の指標が得られるので、ここにおいて初めて環境配慮製品に対する合理的な意思決定が可能となると考えられる。