日本原価計算研究学会第25回全国大会       1999年10月2日・山口大学

報告要旨

 

原価企画プロセスにおける管理技術に関する考察

佐藤嘉彦(碍PM技術研究所、元・いすゞ自動車)

経済学部第1大講義室 11:20〜12:00

 

まえがき

 日本の産業界を今日の地位に築きあげた要素は数多く存在するが、そのうちの一つに原価企画活動がある。日本の原価企画活動は、各社でさまざまな進め方を持っているが、海外企業と比べると総じて日本が進んでいるように感じられるものがある。その多くは(VEを中心とした)コスト造りこみ技術や、コンカレントエンジニアリングが存在するからであろう。企業内活動にあって、原価企画に限らず、諸活動の出力をより大きくしているのは管理技術の存在で、競争力を左右する要素となっている。本文は原価企画活動において各プロセスにおける有効的な管理技術について考察する。

 

1.原価企画プロセス

 原価に関する用語は産業界に数多く存在するがいずれも定義が曖昧で、言葉に翻弄される事がしばしばある。ここでいう原価企画プロセスとは、下記のようにビジネスプランに始まり、商品化後の販売実績の検証までの各種の目標管理をさしている。

 −図表省略−

 

重要なポイントは、

(1) ビジネスプラン:対象商品はどのような商品性を持ったもので、それをどのマーケットでいくらで・いつまで・どれだけ売るか。いくらの投資とコストでいつまでに完成させるか。それによって企業にもたらす収益は如何ほどか。コンペチターは何で、どのような対抗措置(販売戦略)で売りぬくか。製品の形態によっては次のモデルチェンジまでの途中でのフェイスリフトや変更(追加投資)を含む。

(2) 商品戦略:ビジネスプランに基づき、技術の進歩、市場の変化、環境の変化を盛り込みその商品のライフ(フェイスリフトやマイナーチェンジを含む)におけるマーケットに訴求する商品は如何にあるべきか。具体的設計(構想)にバトンを渡せる全社的コンセンサスを構築する。その商品のディメンションや諸元もこの段階で決める。重要な事はこの構想で「戦える商品」であるかどうかである。

(3) 販売戦略:同じく販売価格(仕切価格)や販売に関する主要セールストークを含んだ全社的コンセンサスを得たものを作り上げる。具体的な(マーケット別、年度別)販売数量も決める。重要な事はコンペチターとの戦い方や新規マーケットの開拓方法などが企業の経営戦略に結びついているかにかかっている。

(4) 製品構想・生産構想:戦略に基づき、具体的に設計に落とし込める構想を立てる。生産拠点や技術戦略などをどのように有効的に生かして具体化させるかがポイントとなる。

(5) 目標割付:数値化できるコストや投資、開発費用、更に各種目標(性能、重量、クライテリア、…新規発生部品点数などまで)を部門・部署、装置・部品、に割り付けるが、ポイントは割り付け方と関係者のコンセンサス。総額目標は譲る事はできない。

(6) 作り込み:目標と対比しながら小刻みな検証が必要。目標どおり収まらない場合のマネージメント(Go & Stopの決定)は極めて重要。設計が具体的になる段階で何度かの、部所間や装置・部品間でのトレードオフと予備費の使い方もポイント。

(7) 発売後の検証:計画どおりの商品になったか、計画どおり販売実績が上がっているか、この検証と差異に対する対策は企業の生命にもかかわるし、次の企画にも大きな役割を果たす事になる。

 

2.管理技術の存在

 いかなるものも作り上げるためには効率良くそれが行われなければならない。その効率を上げるものが管理技術と理解できよう。コスト造り込みを中心として、機能や商品性向上に役立つ技術について、主なステップで如何に技術が活用できるか

を相関図にすると、

 −図省略−

 

上図から、企画構想段階にも多くの技術が存在している事が理解でき、コスト造りこみ段階では広い分野の技術があり、それを如何に使い込むかに左右される事になる。

検証の段階では目標ならびにコンペチターや旧モデルとの機能・構造比較(TD)とコスト比較(テーブル)によって検証されていく事になる。

 詳細に触れたいが、残念ながら紙面の都合で各技術の特徴や使い方を紹介できない。詳細は弊著「事例で学ぶ応用と実績:元気が出るVE」(日経BP社刊)を参照願いたい。