『原価計算研究』

2015年 Vol.39, No.2 (通算第78冊)

関係性をもとにした顧客別原価計算研究
―銀行リテール・ビジネスにおける顧客別ABCの課題への対応―

谷守正行
Summary
これまでの銀行の顧客別ABCが今後の日本の成長戦略に資するためには,いくつかの解決すべき課題があることを明らかにする。そのうえで,外銀で適用される顧客との関係性にもとづく価格設定(RBP)を参考にして,銀行のほとんどを占める契約型取引に適合する顧客別原価計算の要件をモデル化する。簡単な顧客数値例を用いて,伝統的原価計算,顧客別ABC,および関係性に基づく顧客別原価計算モデルそれぞれの試算を行い比較検討する。
Key Words
①Activity-Based Costing (ABC) ②Relationship-Based Pricing (RBP) ③顧客別原価計算 ④銀行原価計算 ⑤契約型/非契約型取引 ⑥顧客関係性 (Customer Relationship)

明治期工業簿記理論における仕損費の把握

岡田龍哉
Summary
本稿は明治期の工業簿記理論が欧米理論の翻訳のみならず,日本企業実務に整合させるように展開されていたことを,紡績業における仕損費の把握を例として示すものである。考察の結果,当時の工業簿記の研究者は仕損品勘定を設けることによって紡績業実務に整合的な理論を展開していたことが明らかとなった。
Key Words
①工業簿記 ②仕損費 ③紡績業 ④屑物 ⑤勘定 ⑥会計管理

医療法人における予算管理の事例研究

阪口博政・荒井耕・渡邊亮
Summary
本研究では,2013~2014年にケースリサーチとして,医療法人における予算管理プロセスを,予算・業務管理の類型化並びに医療機関の3つの特徴の観点から明らかにした。予算編成ではフォーム・プロセスを確立し,予算統制では毎月の報告・対応プロセスや意識醸成によって管理されていた。とくに収益額によるコントロールを基軸に,調整機能の重視・専門性への配慮・コミットメント形成に留意されていることが確認された。
Key Words
①医療 ②病院 ③予算管理

グループ子会社におけるCSRマネジメント・コントロールの事例研究
―フォーマル・コントロール・システムとインフォーマル・コントロール・システムの相互関係の視点から―

黒瀬浩希
Summary
本論文では,組織のCSRに関わる諸活動とステークホルダーや財務的・非財務的な業績指標との関連性について,我が国企業の具体的な実務を体系的に記述した上で,CSRのMCSにおけるFCSとICSの補完的な関係や,経済業績と環境・社会業績の間のコンフリクトに加えて,親会社との関係から生じるグループ子会社特有のコンフリクトに対するMCSの機能について論じている。
Key Words
①サステナビリティー・リンケージ・マップ (SLiM) ②サステナビリティー ③マネジメント・コントロール・システム(MCS) ④フォーマル・コントロール・システム(FCS) ⑤インフォーマル・コントロール・システム(ICS) ⑥KPI ⑦CSR ⑧グループ経営

環境マネジメント・コントロール研究の意義と展望

安藤崇
Summary
本論文は,環境マネジメント・コントロールに関連する研究成果を再検討することを通じて,当領域における研究の意義と今後の方向性を明らかにすることを目的とする。先行研究は,①概念定義重視型,②公式・非公式システム統合重視型,③インタラクション重視型という三つの時代区分を経て生成・発展してきたが,本研究は,②の主張の正当性を高めるために,③の進展が重要であることを主張した。
Key Words
①環境管理会計 ②環境マネジメント・コントロール ③環境配慮型業績評価

サプライチェーンにおける調達リスクに適応する組織設計
-オムロン株式会社の事例研究-

大浦啓輔
Summary
本論文では,オムロン株式会社の事例を取り上げ,東日本大震災時のサプライチェーンにおける調達リスク対応について考察する。第一に調達リスクをいかに評価し,意思決定に利用したのか,第二に,リスクに対してどのような組織設計と意思決定サポートツールが有用であったのか,最後に,震災時の取り組みの成功要因と,以降の経営に与えた影響を考察する。
Key Words
①危機管理 ②クライシスマネジメント ③サプライチェーン ④調達リスク ⑤組織設計 ⑥マトリクス型組織 ⑦権限と責任

投資事後評価によるオプション価値の実現と企業戦略

北尾信夫
Summary
投資事後評価が健全に機能しない限り,投資意思決定の際に考慮されたオプションの価値が実現することはない。本稿では,オプションの実行管理を担う投資事後評価の役割に注目し,企業戦略との関係,及び業績への影響について東証1部上場企業への質問票調査結果を用いて実証的に考察した。
Key Words
①資本予算 ②投資意思決定 ③投資経済性評価 ④リアルオプション ⑤マネジメントサイクル ⑥事後評価 ⑦事後監査 ⑧継続的モニタリング ⑨質問票調査

BSC導入方法論の検討:「逸品」ものつくり経営塾におけるオープン・イノベーションの仕組み

加登豊・島吉伸
Summary
本稿では,BSC導入支援者の役割に注目し,そのタイプや振る舞いが,導入プロセスや成果に与える影響を検討する。さらに,研究者を中心にクローズな形で実施されるイノベーション・アクションリサーチの問題を指摘する。そして,筆者たちが主宰する「逸品」ものつくり経営塾が実践するオープン・イノベーション形態のBSC導入プロジェクトを紹介し,研究進展と実務への貢献を同時達成する導入方法としての可能性を示す。
Key Words
①BSC ②導入研究 ③導入支援者 ④イノベーション・アクションリサーチ ⑤オープン・イノベーション

目標管理と方針管理の同質化と相互補完性

衣笠陽子
Summary
本研究は目標管理と方針管理の先行研究の整理を行い,目標管理と方針管理の異質性を確認した上で,その同質化と,一方で依然として残る本来の異質性に基づく相互補完性を指摘する。
Key Words
①総合管理 ②目標管理 ③方針管理

原価企画と不確実性

河合伸
Summary
本研究は,2014年に行った郵送質問票調査に基づいて,不確実性の下で原価企画がどのように使われているのかを議論する。Simons(1995)のコントロール・レバーの枠組みを援用して,原価企画はSimons(1995)の言うダイナミック・テンションを創造するように用いられていることが統計的に示された。
Key Words
①原価企画 ②不確実性 ③コントロール・レバー ④実証研究 ⑤郵送質問票

インタンジブルズに関わる研究課題とその方向性

梅田宙
Summary
本稿は管理会計の視点からインタンジブルズ研究の対象を明らかにし,今後の課題を整理することが目的である。最初に,インタンジブルズ研究の変遷を通じて研究領域を検討した。次に,研究対象の検討を行った。その結果,戦略策定と実行,成果連動型報酬制度,オンバランスによらない外部報告という研究対象が明らかになった。最後に,これら3つの研究対象の課題を明らかにした。
Key Words
①インタンジブルズ ②バランスト・スコアカード ③戦略策定と実行 ④成果連動型報酬制度 ⑤外部報告

2015年 Vol.39, No.1 (通算第77冊)

東日本大震災における管理会計の実態調査

佐々木郁子・岡﨑路易・大浦啓輔
Summary
本研究は,震災発生後の管理会計の実態,平常時と復旧/復興期の管理会計の役割や重要性の相違について実態調査を行った。その結果,震災後も管理会計は使用されたが,使用する目的の重要性の変化や震災時特有の使われ方があることが明らかになった。
Key Words
①危機管理 ②クライシス ③東日本大震災 ④設備投資計画 ⑤中長期経営計画 ⑥予算管理 ⑦マネジメント・コントロール ⑧平常への復帰

震災復興に向けてのマネジメント・コントロール
-東日本大震災におけるオムロンの事例研究-

岡﨑路易・藤本茂樹・三矢裕
Summary
東日本大震災からの復興において,標準化された知識やガイドラインといったものがなく,企業は直面する問題に対して手探りで対応せざるを得なかった。だが,このような状況に対して学術的な蓄積は乏しい。本稿ではオムロン株式会社における震災復興の際の意思決定と業績評価についての聞き取り調査に基づき,震災復興の際にどのようにしたら優れたマネジメント・コントロールが実施できるかについて記述,検討する。
Key Words
①東日本大震災 ②不確実性 ③戦略実施 ④マネジメント・コントロール ⑤成果コントロール ⑥文化コントロール

JIT生産方式と管理会計研究
-JIT生産方式がいつ管理会計研究の対象となったのか-

王志
Summary
本研究は,管理会計研究の対象が拡張していることを検討し,その拡張過程を明らかにする学術的意義を考える。具体的には生産管理の領域で生成された,管理会計の技法でないジャスト・イン・タイム生産方式を取り上げて,JITが管理会計研究の対象となったこと(プロセス)を考察する。
Key Words
①JIT生産方式 ②管理会計研究 ③管理会計研究対象の拡張 ④市場志向のシステム ⑤生産管理

インタンジブルズに基づく企業の価値創造
-BSC,知的資本報告書,統合報告の論点比較-

西原利昭
Summary
本稿は,BSC,知的資本報告書,統合報告の論点比較を通じて,企業の価値創造におけるインタンジブルズ構築の狙いや役立ち,マネジメントの要点について考察したものである。それを踏まえ,企業は,インタンジブルズを持続的な価値源泉として価値創造プロセスの中に位置づけ,戦略の実行に役立てるとともに,インタジブルズと価値創造に関する情報を積極的に開示していく必要があることを論述した。
Key Words
①インタンジブルズ ②価値創造 ③バランスト・スコアカード(BSC) ④知的資本報告書 ⑤統合報告 ⑥インタンジブルズのマネジメント

バランス・スコアカードの導入研究
-他システムの導入がBSC導入に与える影響について-

青木秀彰・井上康秀・加登豊
Summary
BSC導入における促進・阻害要因は,既存研究でいくつか指摘されてきたが,いずれもBSCという単一のシステムにおける要因を解明しようとするものであった。そこで本稿では,BSCを含む複数のシステムを導入した企業へのフィールド調査を通じて,BSCと他のシステム間における促進・阻害要因の関係性について検討する。
Key Words
①BSC ②導入研究 ③促進・阻害要因 ④既存システム ⑤他システム ⑥方針管理 ⑦予算管理

主観的業績評価研究に関する現状と課題
-文献レビューに基づく考察-

北田智久
Summary
主観的業績評価は,客観的業績評価で生じる問題を補完する上で,有効な業績評価方法である。本稿は,管理会計領域における経験的な主観的業績評価研究を,主観的業績評価の利用の決定要因と主観的業績評価がもたらす効果に分類して,文献レビューを行っている。文献レビューを通じて,既存研究の現状を整理し,将来の研究課題を指摘している。
Key Words
①主観的業績評価 ②文献レビュー ③経験的研究 ④主観性のタイプ

管理会計能力が組織業績に与える影響
-吸収能力の視点からの考察-

福島一矩
Summary
本研究の目的は,管理会計システムの利用,管理会計システムを効果的に活用するための組織能力(管理会計能力),組織業績の関係を探索的に明らかにすることである。郵送質問票調査に基づく分析の結果,管理会計能力の1つと考えられる吸収能力の構築が組織業績の向上に重要な役割を担うことに加えて,先端的な管理会計システムの積極的利用が吸収能力の低さを補完する可能性も示唆された。
Key Words
①管理会計能力 ②組織能力 ③吸収能力 ④管理会計 ⑤業績管理 ⑥実証研究 ⑦探索的研究

因果関係を明示する業績報告形式が資源配分の意思決定に与える影響:実験室実験

佐久間智広・新井康平・妹尾剛好・末松栄一郎
Summary
財務・非財務指標のそれぞれで投資とその効果の因果関係をマネジャーに明示することが,複数の投資案への資源配分の意思決定にどのような影響を与えるのかを検証した。学部学生を被験者とした実験室実験の結果,非財務指標による因果関係の明示が,投資から効果発現までのタイムラグがある投資案への資源配分の意思決定を改善することが示された。一方で,財務指標では意思決定は改善されなかった。
Key Words
①因果関係 ②タイムラグ ③非財務指標 ④財務指標 ⑤バランスト・スコアカード ⑥意思決定 ⑦実験室実験

人的資源獲得方針の変更とその影響に関する事例研究

在間英之
Summary
マネジメント・コントロールの研究領域では,人的資源の獲得,すなわち採用にフォーカスした経験的な研究というものは,非常に少ない。本研究では,先行研究で指摘されている「マッチング」の概念を用いて,「人的資源の獲得が,如何にしてマネジメント・コントロールの成果を導くのか」ということを経験的に探究する。
Key Words
①マネジメント・コントロール ②人的資源 ③採用 ④マッチング ⑤嗜好の一致 ⑥パフォーマンス

組織内の要因が組織間での情報共有に与える影響

坂口順也
Summary
本研究では,日本の加工組立型企業を対象とした質問票調査を基礎として,組織内の要因が組織間での情報共有に対して与える影響を検討する。一連の分析の結果,組織内における組織間協働志向が業務情報の共有に正の影響を与える一方で,関連知識獲得志向が技術情報の共有を促進することが明らかとなった。
Key Words
①組織間関係 ②情報共有 ③組織間協働志向 ④関連知識獲得志向 ⑤質問票調査

MFCAとTOCによる環境管理会計の実務的課題と新たな利益獲得の可能性
-事例研究を通して-

中嶌道靖・飛田甲次郎・木村麻子
Summary
MFCA(マテリアルフローコスト会計)とTOC(制約の理論)によるビジネスプロセスの全体最適化に関する理論研究(飛田ほか,2013)を発展させた事例研究である。金属プレス加工業(中小企業)を対象として,MFCAとTOCの両手法によって生産プロセスを分析し,見出されたロス削減を実現するための課題とその可能性について論じている。
Key Words
①MFCA(マテリアルフローコスト会計) ②TOC(制約の理論) ③マテリアルロスの削減 ④ボトルネックの解消 ⑤中小企業

ブランドマネジャー制に資するマネジメントコントロール
-会計システムの役割-

木村麻子・堺昌彦
Summary
ブランドマネジャー制の導入は,うまくゆく企業がある一方で失敗も多い。本研究は,P&Gと花王の事例を通じて会計システム(予算管理と会計情報システム)がブランドマネジャー制において果たす役割と有用性を論じるものである。考察の結果,ブラントマネジャーがブランド別予算管理に十分に注意を払うような会計システムの整備等がブランドマネジャー制の運用において重要である可能性のあることが明らかとなった。
Key Words
①直接原価計算 ②ブランド別損益管理 ③予算管理 ④会計システム ⑤P&A

日本企業の税務戦略に関する事業モデルの構築
-アメリカのグローバル企業の事例研究から-

山田有人・江頭幸代
Summary
本研究の目的は,企業の実効税率に関する現状分析を多面的に行い,またその背後にある経営方針を認識するために,タックス・マネジメントの先進国であるアメリカ企業の事例としてアップル社が米国議会の公聴会で説明した内容を分析して,日本企業が学ぶべき点を模索することである。これにより日本企業にとっての「あるべきタックス・マネジメントの手法」を検討し,新しい事業モデル構築の提案としたい。
Key Words
①タックス・マネジメント ②税務コスト ③多国籍企業 ④実効税率 ⑤アップル社

医療法人における予算の管理者業績評価での活用状況:予算管理実態との関係性

荒井耕・尻無濱芳崇
Summary
本部施設間の活発な対話,予算への戦略の強い反映,施設主導の予算編成,施設への働きかけでの予算の積極活用,施設管理者層による予実差異の主利用という予算管理実践を行っている法人では,予算が管理者の業績評価に積極的に活用されていた。現場管理者の納得性と,実効性を高めたい本部の意思が背景にあると考えられる。
Key Words
①医療法人 ②病院 ③予算 ④業績評価 ⑤管理者 ⑥納得性